ケン幸田の世事・雑学閑談(千思万考)
第百四十五話:「何れ菖蒲か杜若、そしてドクダミ」
2023/05/31
初夏になり、吹く風と新緑の香りが届く頃、「いずれアヤメかカキツバタ」の慣用句でお馴染みの、 とても似合いの綺麗な青紫色の花が咲き始めます。 出典は太平記とか源平盛衰記とかの説もありますが、花が似ていて区別が付け難いところから、 どちらも優れていて甲乙が付けられない美人たちを形容するようになったのは江戸時代初期のようです。 両者の見分け方は、植え付けられている環境と花びらや葉っぱの違いにより、 あやめは乾燥した土壌に咲き、花びら中央に黄色と白の網目模様があり、 葉は幅細で固いのに対し、かきつばたは水辺で咲き、花びらの中央に白い剣型の模様があり、 葉は幅広く柔らかいのが特徴です。殊にカキツバタ(杜若)は、尾形光琳の屏風絵で名高く、世 界最高峰の印象的作品として芸術家から一般大衆にも広く愛好されてきました。 朝陽より傾城匂ふあやめかな 池永言水 花あやめ一夜に枯れし求馬かな 松尾芭蕉 きのふ見し妹が垣根の花あやめ 加藤暁台 雨の日や門提げて行くかきつばた 伊藤信徳 転じて、華やかさとは無縁で、梅雨時の藪の薄暗い陰から地味で可憐な白い十字の花をのぞかせる 「どくだみ」ですが、その生臭い独特の匂いから「犬の反吐草」などと呼ばれ、 あるいは地下茎を張り巡らせる繁殖力の強さから「地獄そば」の異名あり、 あまり印象の良くない野草です。その毒々しい名前も「毒止め・毒矯め」の意で、 殺菌作用があり利尿や整腸など多くの薬効を持つ生薬として「十薬」とも書かれます。 コロナ後の世に、雑草も人も、秘めた実力、隠れた徳を見誤ら無いよう心掛けたいものです。 十薬の聖十字満つわが歩歩に 山口青邨 どくだみや真昼の闇に白十字 川端茅舎 |
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