ケン幸田の世事・雑学閑談(千思万考)
第百四十二話:「春めき水温む」
2023/03/03
現代人は、三月に入ってようやく春だと感じるのが普通になりました。
ある日突然「春一番」と言う風が吹いて、海では時化、山では雪崩を呼びはしますが、
いやがおうにも人々は春の到来を納得させられるのです。
瀬戸内海や壱岐の島方面の漁民たちにとって春一番は日常用語だったらしく、
この強い南風は大変怖れられていたそうです。

雀らも春一番にのりて迅し      皆吉爽雨
春一番武蔵野の池波あげて      水原秋櫻子
 
季節的には早春を感覚的に表現する「春浅し」がどことなく静的な季語であるのに対し
「春めく」には艶めかしい匂いが漂うのを感じられ、その兆しが動くのをうれしく思われます。
寒さが緩み、いかにも春らしくなる喜びが込められた動的な季語でしょうか。

春めくや藪ありて雪ありて雪     小林一茶
春めきし野山消え去る夕かげり    高浜虚子
春めくといふ言の葉をくりかへし   阿部みどり女
 
「水温む」という季語は、何となく温かいユーモアさえ感じさせます。
水の中にも春が来た印しを見出した時に使われるのですから、繊細な感覚があって
生きた用語なのだと考えさせられます。
水草が芽を出し、そこに潜んでいた鮒などの魚が動き出す、
生きものの躍動する様が背景にある用語です。
水の温みは、人間が知る前に鷺や鴨などが先ず感知して、
動きが生き生きしてくるのでしょう。

ながれ合ふてひとつぬるみや渕も瀬も  加賀千代女
水ぬるむ頃や女のわたし守       与謝蕪村
鷺烏雀が水もぬるみけり        小林一茶
芹目高乏しき水のぬるみけり      正岡子規
犬の舌赤く伸びたり水温む       高浜虚子 
 
もっとも、釣り人は魚たちがいち早く感じて、動きを見せることを知っているようです。
寒鮒は、寒中は寒馴れといって、泥に頭を突っ込んでじっと冬眠しているが、
寒が明けると「鮒の巣立ち」と言って、粗朶を離れて動き出し、彼岸前後になると
「鮒の巣離れ」と言い、集団的に移動し始めます。
彼岸も過ぎると、いよいよ産卵準備の為、深場から浅い所へと移動する「乗込み」を開始して、
時には小川や湿田にまで登ってくるので、この時期が一番よく釣れるのだそうです。

枸杞に寄る巣離れ鮒の浮子ひとつ    水原秋櫻子 
堰ひらく渦なり鮒も乗込めり      水原秋櫻子
群れのぼる鮒は見えねど川ながる    篠田悌二郎   
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