ケン幸田の世事・雑学閑談(千思万考)
第百十一話:「2月の歳時記:江戸の風邪」
「谷風邪(横綱谷風)お駒風邪(女郎のお駒)お七風邪(八百屋お七)」
2020/01/31
インフルエンザが広がっているようですが、いつの時代も病気は怖いもので、
貧富を問わず誰でも何らかの健康への関心の高さは、相当なものがあります。
いまでこそ、普通感冒「風邪」と流行性感冒「略称流感・インフル」は区別されていますが、
江戸時代にも、明らかに「流感」と想定される悪性の風邪があったようです。
江戸人特有の洒落心か、真剣なまじないか、単なる流行語なのかは、不明ですが、
「久松留守」と言った張り紙が、風邪除けのお札として玄関や軒下に貼り付けられたそうです。
その意味は、鶴屋南北の世話物で歌舞伎や浄瑠璃の演目としてヒットした「お染久松」の恋
物語に端を発しており、「お前さんの大好きな久松様は留守なので、この家に、
お染(風邪)さんは逢いに来ないでね」という事でした。
また大流行した風邪(おそらくインフル)のことを、その時代の話題を集めた“怖い人”の名を付けて、
「谷風邪(横綱谷風)」「お駒風邪(女郎のお駒)」とか「お七風邪(八百屋お七)」などと
呼んで、怖れ遠ざかろうとしたそうです。

くらがりに灯を呼ぶ声や風邪籠り 村上鬼城
風邪の妻眠ればなほるめでたさよ 高浜虚子
一輪の薔薇に去りゆく風の神 山口青邨
 
二月二日に灸をすえれば、一年健康に過ごせるという俗信があり、貝原益軒の「養生訓」にも、
二月と八月にお灸をすえることを勧めております。
医療技術や薬が今より未発達だった江戸の庶民が、日ごろ使っていたのは、
薬草や動物の脂肪などを利用した丸薬、膏薬などの大衆薬で、広く普及し種類も多かったようです。
こうした「売薬」は行商人から買うか、著名な薬なら店舗で買い求められました。
中でも「もぐさ(燃え草)」はお灸に使われ、原料は「ヨモギの葉」ですが、
この葉は万病に良いとされ、煎じて飲んだり、食材に混ぜて(よもぎ餅)食べるのも一般的でした。
家庭の常備薬としては「和中散」という胃腸薬の知名度が高く、特に食あたりに良く効く粉薬として
重宝され、万能薬扱いまでされたそうです。
病気も軽ければ売薬で直せたでしょうが、「はやり病」と呼ぶ疫病(伝染病)は、
最も恐れられ、天然痘、コロリ(コレラ)、はしか(麻疹)、水疱瘡、等は、死亡率が高かったと
言われております。
当時の平均寿命は諸説ありますが、40歳ぐらいで、幼児の死亡率が特に高かったためで、
首尾よく成人出来れば、60歳ぐらいまで生きられたそうです。
いずれにせよ、原因も予防法も、特効薬も分からなかった疫病に対して、なす術も限られ、
神社仏閣への参拝、願掛け、まじないをする他なかった江戸の人々の気持ちは察するに余りあります。
 
裏門の寺に逢着す蓬かな 与謝蕪村
おらが世やそこらの草も餅になる 小林一茶
コレラの家を出し人こちに来りけり 高浜虚子
 
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