ケン幸田の世事・雑学閑談(千思万考)
第百二十一話:「初物は旬の青物にも人気があった」 
2021/04/12
夏の到来を告げる風物詩としては、“勝つ魚”に通じる縁起物の初鰹を江戸っ子が好物の筆頭にあげましたが、野菜では初茄子も大変な人気を呼びました。
初夢でも三番目にランクインするほどの縁起物で“茄子は成す”に通じるから初物買いを粋というか、
小銭持ちの見栄というか、庶民の間でも競って買いに走り高騰を呼んだので、
幕府が「初物売買禁止令」を出すほどの過熱ぶりだったようです。

     うれしさよ鬼灯ほどに初茄子     岩田涼菟  

陰暦の4月上旬に採れる初物は、先ずは江戸城への献上に始まり、大名屋敷の元へ、
そして豪商が出入りする高級料亭に買い付けられるので、長屋住まいの庶民の口に入るのは、
おそらく相当時期が遅かった筈です。
海や畑からその年初めて上がったものが江戸へ到着したものを初物という本来の意味が曖昧となり、
“大体、その年初めて手に入れ、先ずは仏壇に供えてから食べることが出来たものが初物”だという
オチが付いたのです。
こうしたブームは、18世紀終盤から19世紀初めの頃の話で、川柳に「初鰹家内残らず見たばかり」と
主人が酒の肴にと大枚をはたいて、やっと手に入れた細切れを、
家中の者が見せてもらっただけという句が残されています。
もっとも、幕末近くになると、ブームも下火になり、
「初鰹薬のようにもりさばき」と家族それぞれに少しづつながらも、
盛り付けて出せるようになった様子が川柳に詠まれています。

     初鰹双生児同日歩き初む       中村草田男 
     松魚船子供上がりの漁夫もゐる    高浜虚子
     鰹船かへり大島に雲乗れり      水原秋櫻子

野菜は「青物」と呼ばれ、長屋の住民たちは、表通りにある小売り店の八百屋から買って
食べていました。絵図などの資料によると、茄子、胡瓜、ネギ、人参、ゴボウなど現代でも
お馴染みのものが、漬物などを入れた樽と共に並べられており、ミョウガ、唐辛子などの香辛料的な
野菜が目立つのが、特徴です。旬によってはツクシ、生ワラビ、白瓜、ビワ、松茸、ミカンなども
並べていることが分かりますが、当然のこと、西洋野菜や外国産のものにはお目にかかれません。

     苣はまだ青葉ながらに茄子汁     松尾芭蕉
     茄子漬や雲ゆたかにて噴火湾     加藤楸邨
     鴫焼に貧しき瓶の味噌を叱す     高浜虚子
     採る茄子の手籠にきゆァとなきにけり 飯田蛇笏  
 
ところで,長屋住まいの食事風景ですが、卓袱台もなく、今風の茶の間と言った食事専用の間などなく、
箱膳という四角い台を使ったようです。箱膳は一人ひとりに専用の銘々膳で、かなり贅沢な一面もあり、
狭い空間で暮らす工夫であり、食事の際は箱のふたを裏返せば食卓となり、
終わったら箱の中に洗い終わった食器を収納し、積み重ねて置けばよかった訳です。
 
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