ケン幸田の世事・雑学閑談(千思万考)
第百十五話:「季節の物売り・夏の行商人と屋台店」
2020/06/29
食糧品を保存する冷蔵庫や冷凍庫が未開発だった江戸時代は、毎食ごとに食べる分だけの
食材を買い求めるのが日常でした。
また、日用雑貨品や季節の消耗品なども常備保管する納戸等のスペースに余裕のなかった庶民にとって、
「振り売り」とか「棒手振り」などと呼ばれた行商人が、季節ごとに、朝昼夕ごとに、
ニーズを満たしてくれる大変便利な存在だったのです。
夜明け頃から、朝食用のアサリ,シジミ、納豆などが、昼食時には青菜、煮豆、小魚の塩漬け、
酢漬け、さらに夕方には、煮しめ屋が戸口まで来て総菜を提供していました。
食料品以外では、薬や掃除具、桶、椀、まな板、笊などの日用品を扱う行商人が居り、
季節ものとして、正月には双六売りや、春の花売り、夏には蚊帳売りや団扇売り、金魚売り、
秋には菊売り、松茸売り、冬には木炭や炭団売り、暮れには暦売、門松売り、などが見られました。
薬や和菓子など毎日の決まった客を持たない商人は、工夫を凝らした扮装をし、
変わった声色と口上で、売りたい商品を連呼し、人目を引いていました。

  山町やしはがれ声の金魚売       村上鬼城
  金魚売路地深く来て汗拭ふ       加藤楸邨 
 
野菜や魚などを担いで市中を売り歩くことを「振り売り」と言い、それらの商品を天秤棒で
担いで売り歩く商人のことを「棒手振り」と呼んでいました。
「振り」とは〝触れ歩いて売る人“という意味で、その代表格は、旗本大久保彦左衛門に
愛され義侠心の強かった威勢のいい魚屋の一心太助が有名で、武家屋敷の台所口への
出入りを許されていたようです。
17世紀中盤の幕府による調査記録によれば、江戸北部だけで棒手振りは5千9百人もいて、
50余の業種に及んでいました。
買い物する為、遠くまで出かけることもなく、売り声と共に、ほとんどの生活用品と食品は、
向こうからやって来てくれるのですから、江戸の暮らしにはとても便利なものでした。
 
夏の風物と言えば、奈良・平安の時代からあった食べ物で、暑い盛りの気軽な間食として
人気があったのが、天草を材料とする「ところてん」を商う「心太売り」でした。
特に人気が高かったのは「たまやぁ、たまやぁ」の売り声で子供たちを集め、
シャボン玉を膨らませ、飛ばせて見せる「シャボン玉売り」だったようです。
切り売りの「西瓜売り」や最高級観賞魚とされたランチュウを含む「金魚売り」「団扇売り」などの
他、格別ユニークだったのは、枇杷葉湯売りで、ビワの葉を煎じた清涼剤は、
暑気あたりや下痢に効くとされたものです。暑い日には、かえって温かいものが
体に良いという考えから、妙薬として売り歩く行商人が居たのです。
その逆に「ひやっこい、ひやっこい」の売り声で神田上水や日本橋の余り水に白玉や砂糖を入れて
一杯四文(今の百円)で売り歩いたのが「冷水売り」でした。

      清滝の水汲ませてやところてん    松尾芭蕉
      月かげや夜も水売る日本橋      小林一茶
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