ケン幸田の世事・雑学閑談(千思万考)
第四十九話:「ロシアに領土返還の意志はなし」
2015/09/24
 このところ、岸田外相がロシアを訪ねラブロフ外相と会談したり、
来る国連総会で安倍首相がプーチン大統領と会談して大統領の年内訪日を希う
段取りを進めるなど、日露平和条約締結へ向けた北方領土返還交渉を急ぐかの動きが
盛んですが、このタイミングは極めてまずいと考えます。
第一に、ロシア側の動きは、北方領土での新型経済特区開発計画を進めており、
メドベージェフ首相がつい先月にも択捉島を訪れるなど、度重なる暴挙を
繰り替えしたばかりであり、むしろクリミア半島の一方的な併合と
ウクライナ東部地区親露派への軍事支援続行、シリア支援などは、明らかに
「国際秩序に対する挑戦姿勢」の発露と見るべきで、オバマ弱腰外交に付け入る
戦略の一環であり、力の行使を強めている習中国と歩調を合わせた
“新たなる東西冷戦”の勃発と捉えるべきなのです。
 
第二に、ロシア側の北方領土問題に対する政府高官の諸発言からして、
不法占拠の認識など皆無であり、むしろ歴史を捻じ曲げるような「解決済み」とか
「大戦の結果手にしたもの」と強調する一方で、最近の国営通信社の発表によれば、
この地に新型地対空ミサイルを配備したとのことで、軍事拠点化を推し進め、
既成事実の積み上げを謀っていることからも、領土返還の意図など
毛頭持っていないことが良く分かります。
第三に、アメリカ国務省を始め西側陣営に与している日本が、
ロシアの対ウクライナ戦略に対し制裁を課している最中であり、
とても尋常な外交折衝を行える事態にはないことを自覚すべきであり、
つまり米国やEUの支援なき日露外交なんて孤立無援もいいところで、
所詮勝ち味のない土俵に上ることは無謀以外の何物でもないということにつきます。
 
プーチンが柔道家で親日的であり、秋田犬を贈呈したら喜んだなどと、我が国のマスコミ、
官僚、政治家の多くは随分腋が甘く、彼が柔道用語で「引き分け」と言っているから、
領土の半分は返してくれるようだ、などと、幻想と言うか片思いと言うか、手前勝手な解釈をして
糠喜びをしているようですが、とんでもない外交音痴と自覚すべきでしょう。
ロシアの欲しいのは、日本の資本と技術開発力、そして購買力ですから、引き分けとは、
単純に経済取引上の“Give&Take”を意味しているだけと割り切って理解しておく
必要があると思います。領土問題を棚上げして、経済関係の強化だけを求める平和条約など、
有り得ないことを明白に主張しておくべきです。
 
少なくとも、北方四島問題を議題に挙げて平和条約を外交上のテーブルに乗せた
エリツイン大統領時代の基本認識に戻るまで、対ロ接近は先延ばしすべきであり、
プーチン政権のレームダック化を待つか、その次の政権の出方が分かるまで、
条約交渉を進めるべきでないと思量する次第です。
現下の日露間、東西間の政治外交上における温度差があまりにも大きい時に、
しかも、政府は金欠病で、3千万人近くのロシア人民が
貧困に喘ぐと報じられるなど、ロシア経済が著しく疲弊している今、無理な交渉を
進めてしまうと、一方的な経済協力を求められる危険性が大きく、我が国にとって
何のメリットも得られないでしょう。
ロシアが欧米制裁を受け、アジアに経済関係の重心を移行し、主として中国を
頼みの綱としたものの、すでに中国経済の躓きが世界の大きな不安要因となっており、
それに代わるべきは日本を置いて他に皆無であることぐらいは、
ロシア政府の常識であるはずでしょう。
だからこそ、その反動もあって、安易な弱腰を見せない素振りを見せ付けて、
居丈だけになっていると観るべきであって、日本側としては、じっくりと腰を据えた
長期的な領土交渉を押し立てて行くべきなのです。
 
ロシア経済危機で、プーチン大統領周辺に国営企業の利権をめぐる不協和音が
目立ってきたようです。
BRICs新興経済圏の経済急成長の下、資源価格の世界的上昇トレンドに恵まれた
第一次、第二次政権時代とは打って変って、今次のプーチン政権は、グローバルな
原油価格の急落に苛まれる傍らで、欧米からの経済制裁を被るにおよび、
深刻な資金難に陥ってしまっていると報じられています。
そうした内情を反映してか、利権争奪戦が繰り広げられ、横領や資金洗浄容疑等の
逮捕事件が続発し、まるで目下の中国と生き写しの事象を展開しております。
習政権が汚職摘発に腐心する権力闘争の最中、地雷を踏んでしまう恐れが増大しているのと
当に期を一にしてプーチン政権にも、周辺力学のバランス崩れのもたらす政権危機が
忍び寄っているものと見做されます。
従って、安倍政権も、プーチン命と言った風な、過剰な深入りだけは避け、
ある程度安全圏からの慎重なアプローチが望ましいと考えます。
むしろ、“プーチン後”を見据えた中長期戦略で、領土問題を絡めた平和条約に
取り組むべきではないでしょうか。
 
ところで、我が国外務省の外交姿勢には「譲り合い」が外交の旨であると完全に曲解した
致命的な誤解があり、これまで、中国や韓国による歴史の捏造にしてやられ、慰安婦問題や
北朝鮮の拉致問題も解決に至らず、その伝でロシア外交でも二島返還を
持ち出してみたり、明らかに、弱腰過ぎ、へりくだり過ぎた「惨めな負け犬型外交」を
展開してきました。
外務官僚のみならず政治家も同じミスを繰り返し、米史上最低の大統領外交との
愚弄が世界中に広まった“オバマ主義”ともいわれる“対話による解決”に委ねるヘマを
繰り返してきました。
実際のところ、外交とは「綱引き」なり「押し合い」であり、真剣勝負の「切るか切られるか」の
世界であるべきなのですから、戦後日本が自らの国際的地位を高める数々の外交の機会を
失して来たどころか、むしろ貶められて来たというのが実情でしょう。
単なる口先だけの儀式や卑屈な態度が「弱い日本」を印象付けてきたことを深く反省し、
こうした「事なかれ主義」「負の姿勢」をかなぐり捨て、日本の実力に自信を持つ上に、
国際感覚を磨きあげて「対等外交」と「真剣勝負」を挑む「対話圧力外交」へと
脱皮して頂きたいものです。
 
対露外交上、日本政府として絶対に胸に秘めておくべきは、“近現代史における
日露、日ソ関係の推移”です。
私見では、「日本の3勝1敗で来ている」という史実に基づき、誇りと自信をもって
あらゆる折衝に臨むべきであろうかと考えます。
江戸時代のゴローニン事件における高田屋嘉兵衛による民間外交の勝利、明治における
日露戦争の勝利、第二次大戦の対ソ連敗戦(それも、我が国の終戦処理遅れの、わずか半月における、
ソ連の不意打ち的で姑息な=日ソ中立条約を反故にした=火事場泥棒的な対日参戦で、不本意な結果)、
そして、第三次大戦とも言われた東西冷戦において、ソ連が崩壊し、
民主主義+自由経済陣に加わっていた我が国が勝利したというのが、筆者のカウントする
三勝一敗の近現代史です。
逆の面からみると、来年はソ連崩壊25周年、そのソ連が明らかな国際法違反で占拠した北方領土は、
日ソ講和も日露平和条約も結ばれていない以上、現ロシアに領有権はないのです。
それどころか、スターリンによる我が国軍人60万人のシベリア強制連行と
満州の150万邦人に対して行った殺害、強盗、強姦、暴行こそ、
当時の国際法に明白に違反した侵略の悪行だったことを、史実に照らして
論うべきではないでしょうか。
 
結論的にいうならば、「日本がロシアを必要として宥和(ゆうわ)を急いでいる」との誤解を
生じさせない為にも、「ロシアが日本を必要としている」情勢へと
転換させる必要があります。
従って、G7およびNATOが対露圧力を強めている今、しかもロシア側が領土返還の
意思が全くない以上、平和条約交渉の機が熟していないだけに、
態々プーチン大統領訪日を招く意義はありません。経済協力だけを論ずるなら、
先方の要請を待って安倍首相がモスクワを訪問するのが筋と言うものです。
 
さらに、中東問題を巡っても、シリア内戦の軍事支援を強化するロシアがイランと
連携を推し量る中で、元友好関係にあったリビアのカダフィ政権崩壊を外交上の
重大敗北と捉え、その意趣返しと、ウクライナ問題を絡めての欧米に対する
挑戦を画しており、その舞台裏では中国の関与も取りざたされて居るようです。
マスコミや世情は、難民問題ばかりを取り上げて、左翼人道主義の
プロパガンダがまかり通り、この種の政情を無視するのは、世界にとって
危険極まりないことと訴求いたします。
経済危機同志の露中が武器の販路を求めて、新東西冷戦に踏み出しつつある背景を鑑みる時、
無力な国連など当てにできません。今日本が留意すべきは、
安易な近隣外交に走り宥和策を急ぐ前に、
世界情勢、特に“軍事情勢”を鳥瞰図的に、克明且つ全体的に把握したうえで、
明治の指導者たちが冷静な外交を展開していった歴史に学び、日本の真の国益を
最優先させるべき戦略的思考に徹すべきではないでしょうか。
日本人が覚醒して、経済・文化・技術戦争を勝ち抜き、ソフトパワーによる
21世紀後半の世界リーダーとなるには、特に露中を冷静に見極めて対応を誤らないことが、
極めて大切であると考える次第です。
 
 
 
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