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G蛋白質共役受容体の構造解明とは?:
2012年のノーベル化学賞を受賞
2013/10/11

2012年のノーベル化学賞は米国の
ロバート・レフコウィッツ(Dr Robert J Lefkowitz)博士と
ブライアン・コビルカ(Dr Brian K Kobilka)博士が解明した
G蛋白質共役受容体(G protein-coupled receptors)の構造研究に与えられました。
今回は化学工業系ではなく、医学生理学分野がテーマでした。
G蛋白質共役受容体は解っているだけで数千種類もあるようですが、
その分子構造解明は数多くの創薬に貢献し、人類と病魔の戦いに強力な援軍となっています。

1. G蛋白質共役型受容体(G protein-coupled receptors)とは
2. Gたんぱく質共役型受容体を無力化する物質:
    アレスチン(arrestins.)と Gたんぱく質共役型受容体酵素(GRKs)
3. ロバート・レフコウィッツ博士(Dr Robert J Lefkowitz)
4. ブライアン・コビルカ博士(Dr Brian K Kobilka)
5. (参考)ブライアン・コビルカ博士が創業したコンフォメット(ConfometRx):
    Gタンパク質共役受容体(GPCR)構造特性化と解析が事業内容


1.G蛋白質共役型受容体(G protein-coupled receptors)とは
G蛋白質共役型受容体はグアニンヌクレオチド結合タンパク質と共働する受容体(receptors)
*Guanine nucleotide binding protein

以下はロバート・レフコウィッツ博士の論文前書き。
永い間、化学者は、なぜ人の細胞が環境に応答する、すなわち感覚が
あるのだろうかと疑問に感じていました。
研究者たちには細胞膜にその受容体(レセプター)の存在が示唆されていたものの、
突き止めた人、証拠を提示した人はいません。
我々はアドレナリンの強烈な作用により血圧が急騰し、心臓の鼓動が
激しくなることをことを知っていましたから、
応答感覚に対応する何らかのホルモン受容体が細胞の表面にあると推定。
細胞は常に化学物質に曝(さらされて)います。
ホルモン群、神経伝達物質、成長因子をはじめドラッグの場合もありますが、
それらに応答するために(相手を)説明(interpret )してくれる、なんらかの機能が必要。
この機能が細胞膜に点在するだろうということを仮定。
仮定を説明できたのがG蛋白質共役型受容体(G protein-coupled receptors)でした

ロバート・レフコウィッツ博士らはある時にその存在を確信。
1982年にβ2-adrenergic receptor(G蛋白共役受容体の中で
最も普通なアドレナリン受容体)分離に成功。
受容体のアミノ酸配列(amino acid sequence )を解明しました。
G蛋白質共役型受容体は数千種類が発見され、現在では創薬の重要ターゲットとして
5割以上の既存医薬品開発に関与。
その機能解明努力は視力、嗅覚、味覚、心拍数、血圧、痛覚、糖代謝など
生理学のあらゆる分野に拡がっています.。
オメガ3脂肪酸(EPA/DHA)が炎症を軽減する作用機序の探求は
脂肪組織などに存在するGタンパク質共役受容体(G protein-coupled receptor :GPCRs)の
GPR120(脂肪酸の受容体)に的を絞って行われました。

2.Gたんぱく質共役型受容体を無力化する物質:
アレスチン(arrestins.)と Gたんぱく質共役型受容体酵素(GRKs)

1982年に Gたんぱく質共役型受容体でもっともポピュラーな
アドレナリン受容体(βadrenergic receptor)の分子構造を解明した
ロバート・レフコウィッツ博士らは、
その後9つのサブタイプのうち8つの分子構造(アミノ酸配列)を解明。
同時にその機能を抑制する物質を二つ認識しました。
それがベータ・アドレナリン受容体酵素(βadrenergic receptor kinase :βRK)を含む
Gたんぱく質共役型受容体酵素(G protein–coupled receptor kinases :GRKs) と
アレスチン(arrestins.)でした。

アドレナリン受容体がリン酸化し、さらにリン酸化された受容体分子がアレスチンと
結合することでGたんぱく質共役型受容体の感度が鈍化(desensitize)します。
これらの阻害酵素はβアドレナリン受容体(the β-adrenergic receptors)ばかりでなく
広く体内に分布する、他のたんぱく質受容体にも作動します。

ロバート・レフコウィッツ博士によればGたんぱく質共役型受容体酵素(GRKs) と
アレスチンの機能解明は新しい治療法発見につながることが予測でき、
特に心臓病の治療などへの貢献が期待できるそうです。
(博士は心臓外科が本来の専門。全米心臓協会にも関与していました)
最近になり、博士の実験室ではGRKsとアレスチンが実際に
二官能性(bifunctional)をもつことを発見。
将来はGたんぱく質共役型受容体の信号に拮抗させる物質がなんらかの
作動薬(アゴニスト)となることが期待できるそうです。
アレスチン(arrestins.)は光を認識するGたんぱく質共役型受容体の
ロドプシン(Rhodopsin)の活性を阻害しますから、眼球の疾患である
化膿性ぶどう膜炎(uveitis )治療の鍵となっています。
ロドプシン(Rhodopsin:視紅:しこう)は最も早くから分子構造が解明された
Gたんぱく質共役型受容体。
暗がりで光を認識できる網膜色素として眼の健康に重要な物質。
機能するにはアルコール型のビタミンA(レチナール)が必須。

3.ロバート・レフコウィッツ博士(Dr Robert J Lefkowitz)
1943年ニューヨーク市生まれ。両親は先祖がポーランドより移民したユダヤ人。
1966年コロンビア大学医学部(Columbia University)の外科診療部門を卒業
1968年より1970年まで米国厚生省(the National Institutes of Health )の診療助手。
この時に分子生理学に病みつきになったといわれる。
1970年から1973年までボストンのハーバード大学医学部付属
マサチューセッツ総合病院(Massachusetts General Hospital )で心臓外科を担当。
1977年デューク大学メディカルセンター(Duke University Medical Center.)に転籍。
1982年デューク大学(Duke University)医学部教授となる。

1976年からはハワード・ヒューズ医療研究所(Howard Hughes Medical Institute :HHMI)
にも在籍。
G蛋白質共役型受容体(G protein-coupled receptors)をベースに
受容体生理学を研究している。
ノーベル賞を共同受賞したブライアン・コビルカ博士(Dr Brian K Kobilka)をはじめ
後輩の指導に定評がある。

4.ブライアン・コビルカ博士(Dr Brian K Kobilka)
1955年ミネソタ州「リトル・フォール( Little Falls)生まれ。
ポーランド、ドイツ系米国人。
スタンフォード大学医学部分子細胞学部教授
(departments of Molecular and Cellular Physiology at Stanford University School)
G蛋白質共役型受容体関連事業をターゲットとする企業のコンフォメット(ConfometRx)
共同創業者として知られる。
2011年より国立科学アカデミー会員(National Academy of Sciences)
生理学、科学をミネソタ大学(the University of Minnesota Duluth)で学ぶ。
エール大学医学部より名誉医学博士号授与。
セントルイスのバーンズ病院に在籍(Barnes Hospital :St. Louis)
その後デューク大学(Duke University)のロバート・レフコウィッツ博士(Dr Robert J Lefkowitzの
教室でポスト・ドクター過程。
今回のノーベル賞共同受賞につながったベータ2・アドレナリン受容体(β2-adrenergic receptor)の
分子構造を解明。
1989年からスタンフォード大学医学部教授。
1987年より2003までロバート・レフコウィッツ博士の在籍する
ハワード・ヒューズ医療研究所調査員(Howard Hughes Medical Institute ;HHMI)

これまで視力に関するロドプシン(rhodopsin)のみで拡がらなかった
G蛋白質共役型受容体の分子構造解明がブライアン・コビルカ博士らの
ベータ2・アドレナリン受容体の分子構造解明により
幅広いG蛋白質共役型受容体の解明ができるようになった。

5.(参考)ブライアン・コビルカ博士が創業したコンフォメット(ConfometRx):
Gタンパク質共役受容体(GPCR)構造特性化と解析が事業内容

下記の記事がコンフォメット(ConfometRx)より公開されていますが、
2012年10月12日のノーベル化学賞発表当日にGタンパク質共役受容体関連の特許が
スタンフォード大に与えられたそうです。
この日に与えられた理由は不明。

(記)G蛋白質共役型受容体関連事業をターゲットとする企業のコンフォメットは、
米特許商標庁(USPTO)がこのほどスタンフォード大学に対し、
同大が特許取得済みのT4リゾチーム(T4-L)融合技術を使用して
Gタンパク質共役受容体(GPCR)結晶構造の解析、およびGPCRモジュレーター選別の
方法を対象とする新たな重要な特許を付与したと発表。
新たな特許はまたコンフォメット(ConfometRx)に独占的使用の許諾が与えられる
重要なのは、この特許は結果として生じるGPCRモジュレーターが
米国に輸入ないし米国で使用される場合には、特許で守られた
T4リゾチーム(T4-L)融合技術の海外での使用を禁じていることである。

Gタンパク質共役受容体(GPCR)構造特性化と解析のリーダーであるConfometRxは、
少なくとも13の新規GPCR構造を解析するために使用する特許取得済みの
T4リゾチーム(T4-L)タンパク質融合安定化技術の独占使用権を保有する。
この先駆的なタンパク質融合技術は、スタンフォード大学教授でConfometRx共同創設者である
ブライアン・コビルカ博士が開発、スタンフォード大学は米国および海外でこの基本技術に関して
6件の独立した特許が付与され、その他の特許も出願中である。

T4-Lメソッドは、サイエンス誌およびネイチャー誌で報告されたベータ2アドレナリン受容体、
D3ドーパミン受容体、CXCR4受容体、H1ヒスタミン受容体、S1P1受容体、A2Aアデノシン受容体、
ミュー/デルタ/カッパ・オピオイド受容体、M2/M3ムスカリン性受容体など、
少なくとも13の新規GPCR構造の解析に有効であり、成功裏に応用されてきた。
公表されたこれらの構造に加え、T4-L技術は、ConfometRxでM1ムスカリン性受容体、
ならびにコビルカ研究所でプロテアーゼ活性化受容体PAR1(トロンビン受容体としても知られる)をそれぞれ結晶化させるために使用された。

初版:2012年10月12日
改訂版:2013年10月11日
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