ケン幸田の世事・雑学閑談(千思万考)
第三話:騒乱が続く諸国情勢と世界経済への影響
2013/07/26
IMFが世界経済の成長率見通しを下方修正しました。
4月の発表では、本年度3.3%、来年度4.0%を見通していましたが、7月発表では、
本年度3.1%、来年度3.8%といずれも0.2ポイントずつ引き下げ、その主たる要因として、
新興国の成長率の減速(前回予測5.3%、今回修正5%)とユーロ圏景気低迷の長期化を上げ、
アメリカ経済回復基調が今一つであるとしております。

一方で、日本経済に関しては、本年度は、前回の1.6%を今回2%に上方修正し、アベノミクスの成果次第では、
来年度にかけて世界経済の牽引車に再びなれるのか、それともアメリカがリーダーとして再起するのか、
いずれにせよ日米への期待感を高めているようです。それもこれも、経済だけの問題ではなく、
根本的課題は経済の実態に大きく影響を及ぼす政争・内乱から宗教や文化風土の対立、ひいては
外交、安保問題をはじめとして、益々グローバル化して来た地政学が広く深く、相互干渉されやすくなっている現状にあるようです。
今こそ、世界の隅々で日夜発生している、政経・文化の様相の諸変化に耳目を凝らしてゆくべきではないかと思います。
 
期待されたアラブの春が、すっかり手垢が付いたまま、アラブの冬に逆戻りか、とさえ揶揄されるようになっております。
アラビア語で「サウラ」と言うと「反体制運動」の意で、成功すれば、それは「革命」となり、
失敗すれば、それが「反乱」と意訳されるそうで、英語やラテン系言語では、ほぼ相反する両義を兼ね備えた一つの言葉ですから
、チュニジアやリビアで、そしてエジプトでもシリアでも、なかなか「反乱」が「真の革命」に至らないまま、
騒乱だけが繰り返される現状を言い得て妙、と捉える他ありません。
時あたかも、アメリカの社会学者群が「Youth Bulge」(直訳すると、若者の膨張、
つまりハイティーンから30歳未満の若い世代が占める人口比が増大すると、政変・戦争が起きる。

殊に新興国・途上国では出生率が高く、成長して青年となっても失業率が高く、格差への不満が反体制暴動や宗教闘争に
繋がりやすい社会現象のこと)と名付け、経済成長が伴わない国家の宿命と論評しています。

 
マルクスの名言に「すべての世界史的事実と人物は二度現れる。一度目は悲劇として、二度目は喜劇として。」
とありますが、当にこの通りの事象がエジプトで再現されました。
今回の政変を「ムスリム同胞団に対する世俗主義派の反発」と論評する一部報道は全体像を欠くもので、
現実は、エジプト国民の大多数は、むしろ世俗主義を嫌っており、その点で同胞団は民意から離れていないし、
リベラル派や世俗主義者だけでは、政権打倒などできる訳もなく、大規模なデモさえ起こせない中で、
同胞団が政治権力を握ることを嫌った全勢力が合流し、軍がこれを絶好の機会とみて、権力を奪還したというのが、
どうも真相に近いようです。
革命状況で現れる直接民主主義は代議員制の間接民主主義とは矛盾し、革命を叫んだ民衆は、
やがて歓呼して“中立”を装った軍人を権力の座に迎えることとなり、折角ムバラク退陣で始まったエジプトの民主化の
内容は大きく変容され、ボタンを掛け違えてしまったのです。
それもこれも、「エジプトは、国民にパンを買う金もなくした」と言われたように、現に政府の金庫は空っぽで、
相次ぐ暴動や事故の連続で、観光・農業収入は急減し、歳入が増える兆しが全くなくなって、
当に事実上は破綻国家の様相を呈して来たのが真相です。
日収が2ドル以下の貧民層が3千万人もいると言われ、その多くは文字も読めない人たちで、
そうした階層を選挙の支持層に掛ける同胞団のジレンマは所詮ムルシ政権の責任ではなかった訳で、
ナセル時代から長く続いた社会主義経済構造(パンの代金の過半を支払うのは、消費者ではなく政府補助金)の所為と、
国内産業構造の改革を放置したまま市場開放したムバラク政権の失政の付けが余りにも大き過ぎたからでした。
いずれにせよ、イラク、リビアやチュニジアのような政権転覆が起きた国であれ、これから起きそうなシリアのような国であれ、
独裁者の代替として登場するイスラム過激主義者による統治で、この地域が上手く収まってゆく
可能性はほぼゼロに近いと言ってもよさそうです。併せて軍と警察の不興を買う政策も、
今後誰一人採れそうもなくなったのが今回のクーデターであるとすれば、アラブの春は、早くとも15年、
遅ければ四半世紀も待たねばならないようです。
 
トルコの反政府運動も拡大し続け、長期化しております。この国はイスラム圏ではありますが、
日本の明治維新を手本にしたと言われる憲法でも、厳格に「政教分離」を定めており、いわゆる「世俗主義」が
長年主流を占めてきましたが、ここへきて政治バランスが崩れ、保守反動化が進み、
イスラム原理主義化が目立つようになり、「酒の販売禁止」だとか「列車内でのキス禁止」など、
あまりにも軽薄皮相的な人気取り政策が目立ち始め、政治の迷走が留まるところを失っている始末です。
その背景として、これまで経済政策で成果を収めて来たエルドリアン政権が、余りにも長期化し、
人気の低落に反比例して、独裁色を強める中で腐敗が深まったのではないかと分析されています。
欧州連合EU加盟候補国として、停滞中の加盟交渉を活性化させようとの域内の動きにも、
水を差すことにならなければいいのですが、反政府デモへの強硬姿勢を続けるトルコ政府に対する
欧州諸国の懸念と批判は強まるばかりです。
 
ブラジルは人口2億もの大国で、政府主導で進めてきた工業化が功を奏し、小型ジェット飛行機の輸出や
世界トップテンに入る自動車の大量生産などで、今世紀初頭前後からは新興国として頭角を現し、
中南米諸国の中でも支配的な地位を占めてきました。
しかしながら、このところ成長力の衰えが目立つようになり、資源輸出の陰り、国内産業の生産性が悪化し、
輸入品に押されて、景気低迷下の物価高をきたしています。
格付け会社のS&Pが、現状BBBの国債の長期格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げ、
今後2年で格下げの可能性にも言及したようです。
来年の大統領選挙で再選を目指すルセフ大統領は、痛みの伴う政治的決断と実行を回避するのではないかと見られており、
ブラジルの苦悩も続きそうです。
 
ブラジルのみならず、ロシア、インド、中国、そして南アフリカの五か国は、この春の首脳会議で、
「もともとインドが提起したBRICS開発銀行」設立が中心議題となりましたが、
準備通貨に人民元をゴリ押しする中国の主導ぶりに各国の警戒感が露わとなり、共産主義・専制国家が、
民主主義諸国と国際金融政策で折り合いがつくはずもなく、所詮は“無理筋”との論評が盛んとなっています。
BRICSという言葉が、もはや「死語」となりつつあり、体制も価値観も、あまりにも異なる「同床異夢五か国」間のせめぎあいは、
当に「不協和音」を内外に響き渡らせただけで終わりそうです。
 
欧州連合内で秘密の銀行口座や節税制度により、オフショアとして栄えてきた国々が、
ユーロ危機の新たな時限爆弾となりつつあるようで、とても気になります。
バルト三国の一つラトビアは、長らく旧ソ連圏の新興財閥、オリガルヒの租税回避地となっていましたが、
昨年後半にキプロス危機が表面化してからは、キプロスの銀行からの資金流入が進み、
すでにラトビアの銀行預金残高の過半が「非居住者」で占められているそうです。
南に転じて、地中海のマルタに目を移すと、こちらはドイツ人好みのオフショア金融拠点で、
やはり税金天国であることに変わりはなく、銀行資産のGDP比は8倍とキプロス並みです。
ドイツ企業の多くは、人口わずか40万のこの小国に子会社を作り、法人税の還付制度(税率35%なるも、
大半の25%が株主に還付される)という特殊なカラクリを活用して、節税に努めているようです。
また、所得税でもEU加盟国やアメリカなどと、二重課税回避協定を結んでいるので、富裕な在住者は、
マルタで15%納税するだけで、出身国の課税を回避してしまうといった荒業を許容しているのです。
しかも、10万ドル程度の安い住宅を買えば、常時居住の義務もなく、簡単に在住権が得られるという利便性が、
節税志向の欧米金満家を多数引き付けているのです。
こうした、リトルデビル国家は、ユーロ圏のオーストリアやルクセンブルグにもみられ、国内銀行口座の秘密保持を売り物にして、
母国での課税を逃れたい富裕層・実業家・芸術家などに抜け穴を提供してきたし、
ユーロ加盟国でないにもかかわらず、ユーロを使って税金天国舞台を提供して規制の網をくぐり抜け続けているのが、
リヒテンシュタイン、モナコ、サンマリノなどのミニ国家群です。
 
こうした小国家群であれ、踊り場や峠に差し掛かった新興国であれ、宗派抗争と政治の混乱が絶えない諸国家であれ、
共通するのは、景気の足踏みや減速などに起因する国民の不満と国家戦略の欠如、ひいては、
外貨準備の急減によるマネーの流出で、外貨資産を売りさばくなど、世界の経済・金融市場を攪乱しないかどうかが、
今般のG20の重要な議題になりそうです。
何とか、グローバル規模に及ぶ致命傷だけは回避して貰いたいものです。
そして、問題の背景として考えられるのは、いずれの国・地域においても、民主主義も資本主義も
未熟・未完のレベルにあることではないでしょうか。
求められているのは、政教分離、腐敗政治の根絶、国民識字率向上、インフラ整備と産業戦略の構築、
雇用拡大と市民生活の安定、軍の政治介入排除と、軍事・警察力の治安・防衛専従化、等々です。
これらを達成する為には、第一に、民度向上の為の教育制度拡充と就学率アップ、第二に長続きする、
背伸びを避けた経済成長戦略の導入、そして第三は、民主政治と資本主義経済に、宗教・軍事、共産主義等の
専制を持ち込まないことが、肝要だと思量致します。
 
 
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