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1380 新産米よりジフェニルアルシン酸(DPAA)が検出されました 旧日本軍とナチス・ドイツ軍のフェニルアルシン化学兵器
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2004年9月21日(火)
茨城県は、神栖町地区で今年(2004年)収穫されたお米5.5トンから砒素化合物のジフェニルアルシン酸(Diphenylarsine )(DPAA)が検出され、廃棄されたことを発表しました(平成16年9月16日)。昨年の農産物検査では高濃度の砒素化合物は検出されなかったということですが、やはりというか、危惧されていた農産物への影響が現実となり、環境省や地方自治体関係者は憂慮しています。
水郷に近い、茨城県神栖町木崎地区、大野原地区は鹿島灘と利根川に挟まれた風光明媚な海岸地帯で、旧日本軍中央研究所や航空隊神之池飛行場が存在した場所です。
この地区は水道の普及率が低く(62%)、井戸を使用する住民が多いといわれ、2003年3月には井戸水の砒素汚染が問題となりました。井戸から検出されたのは4.5mg/リットルという高濃度(通常値の450倍)の砒素化合物のジフェニルアルシン酸で、汚染された井戸水の常飲で92名の砒素中毒被害者が報告されています(注1)。
今年の年初には神奈川県平塚市役所近辺の、旧相模海軍工廠化学実験部跡地においても、化学兵器(毒ガス弾)成分が大量に発見され、周辺からは高濃度のジフェニルアルシン酸が検出されています(注2)。大戦直後は各地の貯蔵庫や実験室の砒素化合物が、証拠隠滅を図る関係者によって、土中や池に埋められました。発見されたものは米軍により海洋投棄(これも大問題です)されたそうですが、全国各地には埋蔵されているものが、まだあると考えられています。
ジフェニルアルシン酸兵器はドイツで開発され、クラーク(CLARK)と呼ばれていました(注3)。日本では赤弾(あかだま、あかだん)、赤筒(あかづつ)と呼ばれるくしゃみ爆弾(sternutators)ですが、大戦後は各地で発見されて、その処理が問題となっています。環境省は毒ガス情報センターを設置して全国的に情報提供を呼びかけ、調査を続けていますが、これまでのところ、神栖町、平塚市以外には、神奈川県寒川町の旧日本軍相模海軍工廠跡地内にある、寒川町立一之宮小学校周辺、千葉県習志野市の旧陸軍習志野学校周辺を重点地区として環境調査を実施することにしています。
第二次世界大戦の後遺症として、化学兵器に汚染される飲料水や農産物の被害は、化学兵器先進国のドイツや日本の731部隊が駐屯した旧満州などが、より深刻です。
ドイツでは第一次世界大戦から第二次世界大戦までに大量の化学兵器(chemical warfare agents)が生産されました。サリン、青酸など多くの化学成分爆弾が開発されましたが、実用化されたフェニルアルシン系砒素化合物(Phenylarsenic compounds)は4種類といわれます。クラーク1(CLARK1)、クラーク2(CLARK2)、アダムシテ(ADAMSITE)、プフィフィクス(PFIFFIKUS)などです(注3)。この他、類似系統にはディック(DICK) (ethylarsine dichloride)、レウィシテ(LEWISITE)(chlorovinyl arsenic compounds)などがあります。戦後これらの兵器はロシア軍などによって廃棄されたそうですが、処理がずさんで、今でも、日本とは比較にならない高濃度の砒素類が、各地で検出され問題となっています。主要化学兵器工場のあったレエクニッツ(Loecknitz)周辺の土壌からは、250g/kgの砒素化合物が検出された報告があります(注4)。
日本人がこれら地区の農産物を口にする機会は多くないと思われますが、ヨーロッパに多いヴェルベット草(Vervet-grass, Yorkshire-fog)といわれるシラゲガヤ(Holcus lanatus)や、ハーブ類からも砒素化合物が検出されています。
また北海やバルト海に投棄された大量の砒素化合物の影響も考える必要があり、この海域の輸入海産物は検査する必要があるかもしれません。
注1) 砒素中毒は発病までに時間がかかります。立ちくらみ、手足のしびれ、疲労感、下痢、歩行異常などは他の疾患でも多く見られる症状です。砒素は小脳を冒すと考えられていますが、発見が遅れることが多いのが特徴です。
茨城県神栖町のケースは筑波大学付属病院神経内科の石井医師が最初に砒素中毒の疑念を持ったと伝えられています。問題の井戸は平成2年ごろから付近の住民が使用を始めたようですが、症状が現れたのは10年後くらいからです。被害者の体内からは1.35ppm〜8.71ppmの砒素が検出されています(日本人の一般的な値は0.05ppm〜0.1ppmくらい)。神栖町内では、2004年6月25日までに検査した4325件の飲用井戸水のうち、529件から砒素化合物が検出されました(潮来保健所)。
注2) 平塚では市役所近辺(浅間町)の地下水から0.001mg/l(ヒ素換算)のジフェニルアルシン酸が検出されています(平成16年3月22日の発表)。
注3) フェニルアルシン系砒素化合物兵器(Phenylarsenic compounds chemical warfare agents)
空気中、0.1 mg/m3で有効といわれます。
- クラーク1(CLARK1)Diphenylarsine chloride (Ph2AsCl) (diphenylchloroarsine)
くしゃみ剤(sternutators)
- クラーク2(CLARK2)Diphenylarsine cyanide (Ph2AsCN) (diphenylcyanoarsine)
くしゃみ剤(sternutators)
- アダムシテ(ADAMSITE)Phenarsazine chloride (Ph2As(NH2)Cl)
くしゃみ剤(sternutators)
- プフィフィクス(PFIFFIKUS)Phenylarsine dichloride (Ph2AsCl2) (phenyldichloroarsine)
糜爛剤、皮膚障害をおこさせる兵器。
注4) レエクニッツ( Loecknitz)、旧東ドイツ北部のポーランド国境に近い町。ポーランドの都市、シユチェチン(Szczecin)から30kmくらい西側。大規模な軍需用爆薬製造所(Heeresmunitionsanstalt)が、2箇所あった。
土壌汚染調査報告はScience-of-the-Total-Environment誌が出しています。
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