合成ステロイドdesigner steroid。禁止されているアナボリックステロイド(蛋白同化ステロイド類)であるTHGの存在は、告発によって明らかになりました。
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乃木生薬研究所
研究開発部門のコラム

世界の食材に焦点を置いた
グルメガイド。
ニュース

0880世界を揺るがすTHGドーピング事件(2) 
Designer steroid、THGとは
2003年11月1日(土)



THG事件に関わったバルコ社BALCO(Bay Area Laboratory Cooperative)が開発したテトラハイドロゲストリノンTetrahydrogestrinone(THG)は、近似した分子構造を持つステロイド類のゲストリノンGestrinoneとトレンボロンTrenboloneを使ってバルコ社が合成したものです。米国ではこのような合成ステロイドをデザイナー・ステロイドdesigner steroidと呼んでいます。禁止されているアナボリックステロイド(蛋白同化ステロイド類)であるTHGの存在は、告発によって明らかになりましたが、THGは従来の蛋白同化ステロイドのドーピングテストでは検出できないはずでした。
世界反ドーピング機関WADAは新しい分析方法を開発し、10月21日に世界30ヵ所のIOC公認ドーピング検査機関に通達を出しています(注1)。

<アナボリックステロイドとは>

アナボリックとは同化という意味で、分解の対極にある言葉です。ステロイドは筋肉にタンパク質を同化させる蛋白同化作用を持ちますが、アナボリックステロイドanabolic steroidsは男性の性ホルモンのアンドロゲンandrogensに近い構造を持つ合成物質の総称で、アンドロジェニック・アナボリック・ステロイドandrogenic anabolic steroids(男性ホルモン作用蛋白同化ステロイド)とも呼ばれます。アナボリックステロイドには筋肉の増強作用(anabolic effects)と男性的特徴の促進作用(androgenic effects)があります。 1930年代には合成されていましたが、主として発育不全や性的不能者などの治療に用いられていました。 現在では医薬品以外にもアナボリックステロイドの使用を許可している国があり、スポーツニュートリションのサプリメントとして容易に購入出来ますが、重篤な副作用が予想されますから、医師の指示に従うことをお奨めします。

<アナボリックステロイドの副作用>

アナボリックステロイドは経口服用することにより、急速で、驚異的な筋肉の増強が得られますが、副作用が強いこともよく知られています。 米国の医学界ではではプロスポーツ選手を中心に多くのアナボリックステロイド薬害やその疑い例が報告されています。
薬害については、研究途上の部分も多くありますが、現在の常習使用者の高齢化によって、より確度の高い臨床成果が得られていくはずです。 米国ではテニスのマッケンロー選手が暴力的に興奮しやすいことや、俳優のアーノルド・シュワルツネッカーが心臓疾患を抱えているのはアナボリック・ステロイドの副作用という説もあります。
これまでに副作用として,男性には睾丸萎縮,筋肉萎縮、女性的乳房,脱毛、骨粗鬆症など,女性には月経異常,乳房萎縮,男性化、骨粗鬆症、性器異常、また両性ともに、めまい,吐気,頭痛,疲労,座瘡,発熱,精神異常などが報告されています.また長期間の使用では肝臓や腎臓の障害,動脈硬化,心血管障害、白内障、緑内障、などが指摘されています。
ホルモン類は類似した分子構造をもち、アナボリックステロイド類は男性ホルモンのテストステロンと非常に良く似ています。 精巣や副腎は、酸素よって性ホルモンが別の性ホルモンに兌換される機能も持っており、男性ホルモンは女性ホルモンにも変換されます。男性が女性化し、女性が男性化する副作用はこのためです。
市販の強壮薬などにはメチルテストステロン(テストステロンにメチル基をくっつけた合成物質)が含まれることがありますので副作用に注意が必要です。

<アナボリック・ステロイドとドーピング>

1976年モントリオール・オリンピック大会から、アナボリックステロイドは禁止薬物に追加されています。
いろいろなスポーツ大会でドーピング検査が始まったのは1900年代の始めの頃ですが、オリンピック大会でドーピング検査が実施されたのは1968年からです。 ドープdopeという言葉はアフリカの原住民が使っていた覚醒物質が語源といわれ、米国では覚醒作用を指します。覚醒剤、興奮剤がスポーツ界に使用された歴史は古く、1800年代にはすでにドーピング問題が発生していました。その後1960年代ごろまでは、ドーピングには主として興奮作用、覚醒作用を起こす物質が使用され、アンフェタミン型覚せい剤(amphetamine-type stimulant)が中心でした。近年になり、スポーツ生理学の発達と共に、運動機能を高めると思われる、あらゆる薬物が使用され始めましたが、今回問題となっているアナボリックステロイド(蛋白同化作用剤)が多用されるようになったのは比較的最近のことです。

注1)蛋白同化ステロイドの検出
2003年10月21日、カナダに本拠を置く、世界反ドーピング機関The World Anti-Doping Agency (WADA)は、THGの検出法を公表しました。 この検出法はUCLA(University of California, Los Angeles)のDon Catlin教授.により開発されたもので、IOC(International Olympic Committee)やUSADA(United States Anti-Doping Agency)に公認されています。

スタノゾール、ナンドロロン(注2,3)など、これまでの蛋白同化ステロイドはガスクロマトグラフ質量分析計および高分解能キャピラリーガスクロマトグラフ質量分析計で検出されていますが、THG検出方法の詳細は不明です。(分析計器は1999年にヒューレットパッカード社Hewlett-Packard Companyから分社されたAgilent Technologies社などが製造しています)
日本では三菱化学ビーシーエルがIOC公認ドーピング検査機関です。

注2)スタノゾロ−ルstanozolol (商品名Winstrol)
金メダルを剥奪されたベン・ジョンソンBen Johnsonが使用したといわれている。セタボンCetabonという商品も著名。


注3)ナンドロロンnandrolone phenpropionate (商品名Durabolin)
2001年の世界陸上でドーピングの陽性反応が伝えられたジャマイカのマリーン・オッティMerlene Ottyが使用したといわれる。

来週はアナボリックステロイドの続編とドーピング薬品について報告します。 [an error occurred while processing this directive] 


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