王壮快のマーケッティング・コラム

真鶴町立遠藤貝類博物館と元館長の故遠藤晴雄さん

(写真上)小冊子は遠藤さんが愛した貝のイラスト集(毎年の年賀状)。表紙はリュウグウオキナエビス貝。
栞(しおり)は旧博物館の入場券。デザインはウミノサカエイモガイ。




貝類研究家の遠藤晴雄さんが創立運営していた遠藤貝類博物館が神奈川県真鶴町立として装い新たに真鶴岬にオープン(2010年4月1日)。
仕分けで話題の宝くじの資金助成7千万円を投じ、真鶴町が岬のレストハウス2F を改装したもの。博物館の立地は秦野や足柄の県立森林公園でも体験できない巨木群の密林散歩道を抜けた岬の突端。
1915年生まれの遠藤晴雄さんが2006年に91歳で亡くなられて今年で約5年。
膨大な貝コレクションが散逸せずに、関係者の甚大なる努力によって立派に保存されたことに敬意を表すると共に感謝、感謝。真鶴岬の環境と景観は神奈川県随一。遠藤さんは幸せです。





(写真中)世界の貝の展示室。(写真下)レストハウス・ケープ真鶴。2Fが博物館


遠藤さんが1975年から年賀状に描き続け、「海の貴婦人」と呼んで愛し続けたリュウグウオキナエビス(翁戎貝)、アケボノオキナエビス、ヤサヒメオキナエビス、アダンソンオキナエビスなどの稀少種。オオイトカケガイ、ウミノサカエイモガイ、ショウジョウガイ。いまは見ることも無い逗子海岸のベニガイなど、遠藤さんお気に入りの貝たちと、このように贅沢な環境で再会できるとは。






(写真上から)リュウグウオキナエビス.オキナエビス(翁戎貝).アケボノオキナエビス.ショウジョウガイ(猩猩)


旧「岩」村で生まれ、生涯をすごした真鶴町岩海岸沿いの住宅地に遠藤晴雄さんが個人運営の博物館を開館したのが1986年。きらりと光る貴重なコンテンツを豊富に持ちながらも、交通不便もあり、一研究者が切り盛りする私営博物館は、大きな話題になることが少なく、次第に忘れられていくのが残念でした。







(写真上)移転前の遠藤貝類博物館と在りし日の遠藤晴雄さん.



(写真上)新遠藤貝類博物館へのアクセスは、うっそうとした巨木の森林を経由する。


新博物館で思い出の貝たちと再会すると、遠藤貝類博物館を訪ねた日が蘇り(よみがえり)ます。海が良く見える旧博物館2Fの研究室で悠々自適に研究を続ける遠藤さんとの豊かで楽しい会話。
湘南の逗子で青春時代を過ごし(逗子開成中学に通うために下宿)、逗子、葉山、秋谷海岸で貝拾いをしていた青年はロマンチックな湘南ボーイ。永年にわたり研究者であり、教育分野に携わってきたことが判る穏やかな物腰。スローライフを送りながら生涯を貝の研究に没頭していたそのロマン溢れる情熱が伝わってきました。
整理しきれずにダンボールの中で多数の標本が死蔵されていることの無念、を皮切りに話題は逗子で薫陶をうけた横須賀の貝類研究者、細谷角次郎氏のこと。世界大戦後の内外同好の士との交流。全種収集に情熱を注いでいた、生きた化石オキナエビス類の魅力。海外研究者と有用な食用貝(アワビなど)の世界分布状況を情報交換していること。イモガイのコノトキシンなど貝毒の話まで、尽きることがありませんでした。

多くの工芸品が作られる貝の持つ不思議な造形と多様な肌。美しい貝は世界のコレクター、芸術家を魅了し続け、多くのドラマを生んでいます。
見ているだけで楽しい、美しい。それに惹かれるのがコレクターの初心であり、大半の目的ですから、貝の展示は名前を表示して並べておくだけで意味があるのかもしれません。しかしながら、貝は切手、コインなどと同様に世界中にコレクターが存在し売買されています。
専門業者が存在し、(資金さえあれば)相当な希少種までの収集が容易なため、貝を展示している博物館は珍しくありませんが、ほとんどのコレクション展示は類似していて総花的。

(写真上)オオイトカケガイ(大糸掛け貝:Epitonium scalare).かっては超稀少種だったという。遠藤さんがその歴史にロマンを感じていた貝
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新博物館は業者からの直接購入品ではなく、コレクターであり、研究者である遠藤さんの介在がストーリーを生み、差別化に成功しています。
少し欲をいえば、他の博物館と類似する無機的な「静」の展示法を、もう少し脱却できたら。
「動」とは流行の大型ディスプレイでワンパターン・コンテンツの画像を流し続けるという月並みな手法のことではありませんが、収集のドラマを語り、遠藤さんが注いだロマンを展示に溢れさせれば、今後の発展に大きなポテンシャルを持つ専門博物館です。

新博物館には遠藤コレクション5千種弱の内3分の1ほどが展示されています。
150坪ほどのスペースですが、種類としてはこれが一度に展示する最高限度でしょう。
自然科学系の博物館は、いたずらに展示品種数にこだわり、それを整然と飾ることが目的ではないでしょう。展示数は限定しても、選ばれた展示品に生命を吹き込み、観るものに学識ばかりでなく、そのロマンとドラマを伝えるストーリーこそが求められます。遠藤さんもオオイトカケガイ、オキナエビス(翁戎貝)などに関するドラマの一端を小冊子「海の貴婦人」で紹介しています。

もう一つ残念なのは少額とはいえ入場料。真鶴町民のみが無料ですが、神奈川県民、真鶴町民こそが維持費を分担し、交通不便な遠方から訪ねてくる、外国人や県外人には、ささやかな気持ちとして無料にしたかったものです。
遠藤晴雄さんと、ニュージーランドの遠藤さんというべき、同世代の貝愛好家フラテイ(Flutey)さんとが重なって、視野の広い「遠藤さんならば」、そんな感じを受けました。
Fred and Myrtle Flutey’s paua shell lounge:ブラフ村の個人的展示から、死後にカンタベリー博物館に移設後は入場者が激増するも、故郷と同じく入場無料)

観光立国編第二十一話:「観光立国を推進するニュージーランド:その7」
「観光立国を支える個人コレクション」



(王壮快)








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