王壮快のマーケッティング・コラム

ワインよもやま話:第十四話 独自性のあるワイナリー:山形のワイン産業[12]

1.山形県のワイン産業
2.地ワインに徹する小規模なワイナリー群

  • 大浦ぶどう酒(山形ワイン)
  • 月山ワインやまぶどう研究所(月山ワイン)
  • 酒井ワイナリー(バーダップ)
  • 須藤ぶどう酒工場(桜水ワイン)
  • 佐藤ぶどう酒(金渓ワイン)
    3.従来型のマーケッティングを志向するワイナリー
  • 高畠ワイナリー
  • 朝日町ワイン
  • タケダワイナリー
    4.山形県ワイン生産地の土壌
  • ロッシェル塩((Rochelle salt)
  • 緑色凝灰岩(グリーンタフ)
  • 安山岩
  • 吉野鉱山の石灰岩


    1. 山形県のワイン産業
    山形県はさくらんぼ、りんご、ぶどう、ラフランスなど、果物の産地として全国でもトップクラスの生産量があります。全国1のさくらんぼが著名ですが、ぶどうの出荷量も第3位といわれます。食用ぶどうではアメリカ種の小粒な種無しデラウェア(Delaware)、ワイン用ぶどうでは、甲州種、デラウェア種、ドイツ種のリースリング(Riesling)、ケルナー(Kerner)や、シルヴァネル(Silvaner)とリースリングの交配種であるミュラー・トゥルガウ(Muller-Thurgau)などの栽培に特徴があります。
    山形県のワイン製造は世界大戦(1941年〜)前からの永い歴史があります。戦前のワイン生産者集積は甲州に次ぐ規模だったようですが、その後は目立った発展はしていません。ピークでは年間3,000キロリットル程度の出荷量といわれますが、近年はその半分以下で、全国でも6-9位くらいでしょう。
    ミュラー・トゥルガウ
    ミュラー・トゥルガウ(Muller-Thurgau)
    山形県のワインは販売量がありませんから、その10倍も販売する山梨県のように外国産ワインの混入でまかなう必要が少なく、純国産の県産ぶどう使用率が高いのが特徴的です。首都圏のような大消費地を背景に持たなかったからといえますが、世界的な供給過剰の現状では、それが幸いしているかもしれません。



    2. 地ワインに徹する小規模なワイナリー群
    山形県には11社のワイン製造業者があります。
    比較的規模の大きなマーケッティングを模索する会社が3社ありますが、最も注目すべきなのは、一品種で200-1,000本/720mlくらいを生産する小規模な業者です。独自性を持つ小規模生産者は5社ほどありますが、いずれも生産者の顔が良く見えています。農産物であるワインには大事なことです。
    品質の保証をする組合もありますが、認定証は生産者、消費者にはあまり関心をもたれていない印象でした。イタリアのように、独自性を貫く小規模な生産者たちですから、お墨付きは不要なのでしょう。
    小さな規模で独自性を保つワイン生産者は、庄内地方の鶴岡に近い、山葡萄の「月山ワイン・やまぶどう研究所」を除けば、山形県の南部に集中しています。
    いずれも山形市よりやや米沢市に近い南陽市(人口約36,000人)の白竜湖周辺に散在します。この辺りは金銀など希少金属が産出した吉野鉱山の下流に当たる土壌で、食用デラウェア種のハウス栽培(レインカット)が盛んな地域です。技術向上の目的で地場産の国際種でワイン作りもしていますが、シャルドネ(Chardonnay)、カベルネ(Cabernet Sauvignon)など国際種の市場性には懐疑的で、地場産ぶどうの甲州、デラウェア、マスカットベリーA(日本産改良種)、ナイアガラ(Niagara)など在来品種で地ワインを製造しています。都市圏の食卓用ワイン販売の難しさを認識しているために、ネット販売を除けば地域消費(地産地消)と観光土産需要がほとんどです。
    日本のワイン業界が直面している在庫急増も、地ワインを小規模に作る、これらのワイナリーには無縁のようです。いずれも、国産ワインの進路に関しては、結論を先取りしているかのようなしっかりしたマーケッティング・コンセプトを持っています。


    1. 大浦ぶどう酒(山形県南陽市赤湯312、大浦 晃社長0238-43-2056)
      南陽市赤湯近くに工場があります。1939年には創業者の大浦九一郎氏が「大浦農産加工場」でぶどう酒を造った記録があるそうです。現在のブランドは「山形ワイン」です。
      大浦ぶどう酒には、セイベル(Seibel)、カベルネなど国際種もありますが、地場に根付いた赤湯産甲州種の特徴あるワインを造っています。甲州産の甲州種より美味しいかもしれません。社長の子息である大浦宏夫さんが丹精を込めて製造しています。管理を担当する母親の敏子さんとのコンビは微笑ましい限りです。

      大浦ぶどう酒ワイナリー
      大浦ぶどう酒ワイナリー
      大浦ぶどう酒ワイナリー
      試飲所隣接の貯蔵庫
      自慢のバレルエイジング・シリーズ
      自慢のバレルエイジング・シリーズ
      自慢のバレルエイジング・シリーズ
      大浦敏子さん、大浦宏夫さん


      甲州種の原種は、甲州から金の採掘に移入してきた山師が、十分の一山から金沢と呼ばれる一帯に広がる地域に持ち込んだそうです。吉野川流域の吉野、萩地区から、この辺りにかけては江戸時代に金を産出したそうです。
      バレルエージング(樽熟成)と名付けられた自信作のワインには遺伝子が変異しているだろう甲州種の白ワイン(2000年産3,255円/720ml)とブラック・クイーン種の赤ワイン(2003年産3,255円/720ml)があります。それぞれ1,200本、2,400本の少量限定品ですが、非常に優れたワインです。
      2000年の白ワインを購入しましたが、私的なテースティング・パーティーでは、ヒラメと貝の刺身料理の場合、タルの匂いの強いシャルドネより高い評価でした。(ワインよもやま話第13話参照)。
      ミュラー・トゥルガウ
      カベルネ・ソービニオン(Cabernet Sauvignon)
      ミュラー・トゥルガウ
      シャルドネ(Chardonnay)

    2. 月山ワイン・やまぶどう研究所(東田川郡朝日村大字越中山字名平3-1、JA庄内たがわ0235-53-2789)
      鶴岡駅から約30分、山形道庄内あさひICに近い道の駅「月山あさひ博物村」の中にあります。山形市からは1時間半くらいです。1972年には農協と町が、村おこしの一環として山ぶどうのワイン造りを検討していたそうです。1979年には近隣農家の山葡萄でワイン製造が始まっています。
      第3セクターではなく、JAそのものが経営して、創業時からの担当者が継続していますから、生産者の顔も良く見えますし、気合が入っています。
      山葡萄100%製品とセイベル(Seibel)などとの交配種を中心に商品構成をおこない、ピークでは20万本/年以上を販売したそうです。現在でも落ち込みは少ないようです。食卓需要を狙わずに、観光土産とアントシアニンなどポリフェノール類やミネラルが売り物の健康食品として販路を確保しているのが成功の秘訣かもしれません。甘口と、辛口のビンテージ(現在は2001年)の2種類を持つ山ぶどう酒(いずれも2,650円/720ml)は、やや価格が高い気がしますが、この値段だからこそ継続できるのかもしれません。発酵を調節して甘口を造ってから、販売は伸びたそうですが、日本市場はそんなものかもしれません。料理が無い試飲ではわかりませんが、苦い辛口も、羊や牛豚のしつこい料理にはマッチしそうでした。博物村でジンギスカン料理を供して、試飲させたらと思います。
      月山ワインは風光明媚な道の駅、博物村の中にあります
      創業からワイン造りに携わってきた月山ワインの井上秀夫さん
      月山ワインは風光明媚な道の駅、博物村の中にあります
      月山ワインは風光明媚な道の駅、博物村の中にあります
      月山ワインは風光明媚な道の駅、博物村の中にあります
      月山ワインは風光明媚な道の駅、博物村の中にあります
      月山ワインは風光明媚な道の駅、博物村の中にあります
      月山ワインは風光明媚な道の駅、博物村の中にあります
      収穫が近い山ぶどうと月山ワイン
      月山ワインは風光明媚な道の駅、博物村の中にあります
      井上さん自慢の月山ワイン
      月山ワインは風光明媚な道の駅、博物村の中にあります
    3. 酒井ワイナリー(バーダップ)
      1940年からワイン造りをしている。職人肌のこだわりを持つ生産者です。
    4. 須藤ぶどう酒工場(桜水ワイン)(紫金園)
      自社農園の甲州、マスカットベリーA、メルロー、リースリングなど4種類ほどを使い、ごく少量のワインを生産している。
    5. 佐藤ぶどう酒(金渓ワイン)
      1920年代からぶどう畑を開墾し、1940年からワイン作りをしている。県内他産地のぶどうも使用している。食用ぶどうのウェイトも高い。


    3. 従来型のマーケッティングを志向するワイナリー

    1. 高畠ワイナリー。
      高畠駅から徒歩10分程度に観光ワイナリーがあります。近畿コカコーラが設立した山形県では最大出荷量の生産会社です。販売量が多いだけに、売れ筋商品は外国産ワインと、その混入品があります。年間販売量の推定は350-400キロリットル程度。観光ワイナリーは県下に3箇所(他に、月山ワイン、朝日町ワイン)ありますが、最も充実しています。カベルネ(Cabernet Sauvignon)、ピノ・ノワール(Pinot Noir)、メルロー(Merlot)などの赤ワインは、高畠産もあれば外国産もあるという大企業的な構成ですが、いずれも平均的な風味でした。白は外国産のシャルドネもありましたが、印象的な商品がいくつかありました。 2004年 フレッシュ&ドライ シャルドネ (1,586円/720ml)、1999 年シャルドネ 樽発酵 (3,161円/720ml)、 2004年上和田ピノ・ブラン(1,376円/720ml 高畠町上和田地区産)などですが、1999 年シャルドネ 樽発酵を自宅でのテースティング用に買い求めました。

      朝日ワインのワイン城

      高畠近隣の中川駅近辺に広がるハウス式ぶどう畑(レインカット)


    2. 朝日町ワイン。
      前身は1944年創業の「山形果実酒製造有限会社」だそうです。          
      朝日町、JA寒河江などが出資する第3セクター方式企業。ワイン城という観光ワイナリーで国際種栽培を披露しています。山形市からは、朝日岳方面に1時間半はかかります。自家用車以外のアクセスは不便で、立地やサービスに問題があります。
      ワインの質よりも、ワインの雰囲気を楽しませる、甲州的志向のマーケッティングですが、紹介すべきワインが見当たりませんでした。試飲を小さなプラスティックカップでさせていますが、これでは味がわかりません。味覚に関する産業は第3セクター方式では困難が伴うようです。推定年間販売量は200-250キロリットル程度。ブランデー生産が特徴的だそうですので、テースティングのために、買い求めました。

      朝日ワインのワイン城

      朝日ワインのワイン城
      朝日ワインのワイン城
      朝日ワインのワイン城

    3. タケダワイナリー。
      1920年からの歴史があります。いにしえのブランドは「金星ブドー酒」、現在は「蔵王スターワイン」です。
      上山市の、かみのやま温泉駅より2km程度の立地ですが、坂道ですから徒歩範囲かどうか微妙なところです。シャルドネ(Chardonnay)、カベルネ(Cabernet Sauvignon)、メルロー(Merlot)など国際種の栽培や、首都圏の市場に関心が高いワイナリーです。社長の武田重信氏は先進国のフランスを超えることが夢だそうです。食卓用の国際種はワイン市場の主役であり、マスコミやソムリエが取り上げる機会が多いために、参入業者が後を絶ちません。しかしながら、国際種には醸造技術ではカバー出来ない、気候や土壌や雑交による、ぶどう自身の遺伝的変異があるようです。日本では輸入品のようなスケールメリットもありませんから、消費者が要求するコストパフォーマンスが最大の壁となります。推定年間販売量は150-200キロリットル程度。
      タケダ・ワイナリー
      タケダ・ワイナリー
      ワイナリーよりぶどう畑を望む
      ワイナリーよりぶどう畑を望む


      ワインの試飲は比較的おおらかで、発泡ワインを除けば、高額ワインの試飲も無料です。ボルドーで技術を学んだからか、赤はブレンド物が多いので、シャルドネなど、白を中心に試飲しました。山形産シャルドネのシャトー・タケダ(1999年、5,250円/700ml)、レ・フレールタケダ(1999年、2003年/720ml)、ピュア・シャルドネ(2003年、1,700円/720ml)、デラウェア種のアイスワイン(1,365円/720ml)が印象に残っています。シャルドネは他産地のとは異なった、独特の風味を感じました。
      ここでは蔵王スターシャルドネ(2000年、2,100円/720ml)を自宅でのテースティング用に買い求めました。


    自慢の発泡ワイン
    自慢の発泡ワイン
    最高級のシャルドネ・ワイン
    最高級のシャルドネ・ワイン
    最高級のシャルドネ・ワイン
    ブラック・クイーン

    4. 山形県ワイン生産地の土壌

  • ロッシェル塩(Rochelle salt)
    山形県はぶどう栽培に適した土壌とは言い難い面がありますが、山形県のワイン生産の大部分が、第二次世界大戦中に、軍需物質のロッシェル塩*生産のために始まったといわれます。目的が食用ではなかったわけです。これはイヤーフォンなどの振動板に使用する結晶です。ワインの製造過程で酒石酸から抽出できます。真偽は定かではありませんが、1940年前後(第二次世界大戦開戦時)にワイン生産を始めたところがいくつかありますから、これが確かな情報ならば、ぶどうの栽培が難しい土地柄でワイン造りが盛んになった事が理解できます。
    *ロッシェル塩(酒石酸ナトリウムカリウム)KNaC4H12O10.

  • 緑色凝灰岩(グリーンタフ)
    山形県は関東地方の北から北海道南部にかけて広く分布する緑色凝灰岩(グリーンタフ)に覆われています。この土質は火山岩が粉砕されて堆積したものです。宇都宮の大谷石、青森県の大鰐石、山形市山寺に産する山寺石、村山市の楯岡石などが緑色凝灰岩と同系統の石材です。山形産ぶどうのワインはテースティングしてみると、他産地に較べ苦い品種が多くあります。これがこの地方の土質の影響によるものであろうことは想像に難くありません。

  • 安山岩
    山形県には安山岩土質があるようです。安山岩の土質はぶどう栽培に適しているとは思えませんが、地表に近いところでマグマが冷却された岩石ですから、石灰岩(カルシウム岩)と混在することが珍しくありません。したがって緑色凝灰岩よりブドウ栽培に適しているといえます。安山岩は玄武岩とともに、日本のどこにでもある珪素岩(石英主体の火山岩)です。
    高畠の「高畠石」は火山岩系の砂岩です。砂岩は石灰岩(カルシュウム)成分を含むことが多々ありますから、その系統かもしれません。

  • 吉野鉱山の石灰岩
    16 世紀から続いた赤湯近郊の吉野鉱山は金銀で有名ですが、1902年に吉野石膏が創業した場所としても知られています。当時は石灰岩が産出したのでしょう。
    吉野石膏はアスベスト問題で渦中の企業ですが、「タイガーボード」で著名な石膏ボードの寡占企業です。石膏ボードは石灰で作ります。吉野石膏は吉野川のカドミウム公害でこの地からは撤退しました。吉野石膏はカドミウムの中和で大量の石灰を使用していたようですから、この処理によって、近隣にはブドウ栽培向きの土壌が出来上がっている場所があることも考えられます。良質のぶどう栽培には石灰質やマグネシウム質が特に重要です。



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