王壮快のマーケッティング・コラム

ワインよもやま話:第十三話 日本産ワインは生き残れるか?[13]


シャルドネのテイスティング


1.欠陥が多い、ワイナリーのテイスティング
食事用ワインのテイスティングは非常に難しいものです。味覚には沢山のファクターが関与します。日本料理にはxx、刺身にはxxなどという単純なものではありません。
簡単に優劣を評価できませんから、安易な評価は生産者に失礼です。
一定のレベルを持つ食事用のワインは、ワイナリーなどで試飲しても、味覚が正確に働かず、その都度、評価が異なることがほとんどです。ワインの種類が増えれば増えるほどこの傾向は強まります。
ワイナリーでのテイスティングは、試飲環境が悪いこと、料理が無いこと、グラスが安物ということが欠点です。非常に小さなプラスティックを使用するところさえあります。生産者がこの程度ですから、ワイン文化が根付くのは、まだまだ先の話になりそうです。本格的なヨーロッパのワイナリーは満足すべきグラスで試飲させますが、歴史と文化の相違でしょう。ワインの選択は、自宅で様々な料理と共に飲んでみるのが一番です。


2.山形県産ワインと新世界のワイン
山形県のワイン産業を取材した機会に、一部のワイナリーで買い求めた山形産シャルドネと海外産シャルドネをテイスティングしてみました(本業はマーケッティングです)。シャルドネ以外では南陽市の大浦ぶどう酒が自信をもって薦める甲州種を加えました。赤湯地区で遺伝子が変異しているといわれる甲州種ぶどうから造られた逸品です。山形では食事用にはこれ以外見当たりませんでした。
白ワインは日常的に購入できる範囲の価格帯に限定しています(出来るだけ安いものという意味ですが、純国産にはあまり安いものがありませんでした)。


  • 高畠ワイン2001年シャルドネ 樽発酵 (3,161円/720ml)
  • 蔵王スターシャルドネ(2001年、2,100円/720ml)(タケダワイナリー)
  • ロバート・モンダヴィ・ウッドブリッジ・シャルドネ(米国、ナパ)(2002年、980円/750ml)
  • リンデマン・BIN65・シャルドネ(オーストラリア)(2003年、1,280円/750ml)
  • バレルエージング(樽熟成)甲州種ワイン(2000年産3,255円/750ml)(大浦ぶどう酒)


3.テイスティングに関わる諸条件


  • テストの日時:2005年9月10日
  • 食事時間:午後16時より24時まで
  • 気温、湿度:晴れ、摂氏28度から31度、湿度60-70%くらい。空調は使用せず。
  • 参加者年齢、性別:32歳から60歳までの男3名、女4名
  • アルコール分解の遺伝子:酒豪(男2名、女1名)、飲める飲めない程度(男1名、女3名)
  • 食暦:(永年にわたり料理と酒に関心の高い男女、海外駐在、渡航暦豊富)。ワイン、リキュール、スピリッツなど洋酒の酒暦豊富。食品関係のプロは参加していません。
  • 喫煙:酒豪の男性1名が喫煙。ダイニングは禁煙としました。
  • 体調:全員良好。
  • 料理メニュー:煮野菜、焼き野菜類、あんきも、ぬか漬物盛り合わせ、谷中生姜、ピクルス各種、サラダ(オリーブオイル・ヴィネガー和え)、ムールのマリネ、ヒラメの活け造り、活きミル貝の刺身、鯵寿司、鯛の塩釜、ガーリック・バケット、ヒラメの潮汁、チーズ各種、海鮮五目チャーハン
  • ワインの温度:氷水にて摂氏2-3度から8度くらい。いろいろな温度でテスト。
  • ワインの保存状態:外国産は当日、ディスカウント・ショップで購入。山形県産ワインは前日に生産者より購入。
  • ワイングラス:ローゼンタール製クリスタル・グラス、ベネチア産クリスタル・グラス     
  • 併飲した他の酒類:18時ごろより一部の希望者に山形産蔵出しの日本酒(アルコール19度くらい)。20時ごろには赤ワイン(イタリア、アレグリーニ・ポーヤ1990年)。21時ごろからはスピリッツ類が漸次飲まれました。
    • ジョニーウォーカー・ブラック、
    • ボンベイ・サファイア(ジン)
    • マイヤーズ・ダーク(ラム)
    • 「どなん60度」(泡盛)
    • 朝日町ワインの高野(ブランデー)



4.テイスティングの方法
16時に全てのシャルドネを同時開封。19時に甲州種を開封。料理はランダムに用意されましたから、全てのワインが空になる23時ごろまでテストが続けられました。前述のように、白ワインだけでなく、各種の酒類と併飲しましたから、スローペースです。
酒類が好きな家庭や、諸パーティーでは、併飲は日常的なものです。併飲によって、ワインの評価も異なると考えています。
昨夏、長野県産白ワインをテストしたときは、玉村豊男さんのビラ・デスト・ガーデンファーム・アンド・ワイナリーや、小布施ワイナリーのシャルドネ・ワインに、大手のマンズ、メルシャンなどの高級シャルドネ・ワインを加えた純国産だけでのテイスティングでした。
今回は山形県に対象製品が少ないために、コストパフォーマンスを探るという意味で、新世界産の安いワインを2本加えて、平均的な評価を求めてみました。


5.テイスティング参加者の評価
やはり、人様々でした。予想したとおり、同じシャルドネでも、料理の種類によりマッチするものが異なり、冷却温度、酩酊度によっても評価が変わりました。

  • オードブル類(16時ごろから)
    早い時間帯にだされたムール、あんきも(脂っこい)、サラダ、漬物などの料理に、飲める飲めない程度(男1名、女3名)の人たちに支持されたのがメルシャンのウッドブリッジ・シャルドネでした。
    酒豪クラス(男2名、女1名)は山形産のシャルドネに満足しました。

  • ヒラメ、ミル貝の刺身(18時ごろから)

    活け造りの刺身が加わる頃には、ワインの温度も下がってきました。
    相変わらず飲める飲めない程度(男1名、女3名)の人たちに支持されたのが、メルシャンのウッドブリッジ・シャルドネ。ほのかな甘みが好まれるのでしょう。おそらくブレンドですから、高度な技術を持つブレンダーが大衆向けのバランスを配慮したと考えられます。

    あっさりした刺身ですから酒豪クラスには、どのシャルドネも人気がありません。繊細なヒラメやミル貝の香りを、オークの香りが邪魔するのかもしれません。
    酒豪クラスには甘みのある山形産蔵出し直後の生日本酒(アルコール19度くらい。1,600円/800ml)が一番人気でした。これには生活習慣も考えられますから、割引する必要があります。

  • 刺身第2幕(19時ごろ)

    やや酩酊してきた頃、大浦ぶどう酒のバレルエージング甲州種ワインを開封。
    淡白な刺身とのマッチングに酒豪クラスを含めて幅広い支持を集めたのは意外でした。全員が高い評価をしたために、直ちに空になりました。
    赤湯の甲州種ワインが白身や貝の刺身に適するとは、新たな発見であり、面白い結果です。繊細な刺身にマッチするには適度な甘さが必要なのでしょう。
    普及版のシャルドネは、淡白な刺身に合うものは少ないようです。マグロやブリにはもっとマッチするかもしれません。
    シャルドネ種はオークを使うべきと考えていますが、生産地のぶどうとマッチする樽の選択や、香りの程度が難しいのかもしれません。シャブリのグラン・クリュ程度でも、刺身の種類によっては美味しい日本酒より評価が低いことがあります。

  • 鯛の塩釜と鯵寿司(20時くらいから)


    見事に票が割れましたが、シャルドネはどれも人気がありました。ソースに、香りの強い一番絞りのアルジェリア産オリーブオイルを使用したこと、この時間帯はワインの冷却がすでにピークであることも影響しているでしょう。
    様々な意見でしたが、やはり塩味と蒸し魚には、どのタイプのシャルドネも比較的マッチするようです。
    鯵寿司(比較的甘酢で漬けた)には、酒豪クラスにもウッドブリッジ・シャルドネとリンデマン・BIN65の外国勢が高い評価でした。

    5.あとがき
    欧州のベテラングルメはワインから土の香りを感ずるそうです。ミネラルの味ということでしょう。日本人は日常的なミネラルの摂取習慣に関しては欧州人に全くかないません。欧州は全土にカルシウムとマグネシウムが豊富です。シャルドネはカルシウムとマグネシウムに加えて、珪酸やアルミが必要です。土壌改良でぶどうの生育に成功しても、ミネラル・バランスによる味が異なってしまいます。樽を使わない山形産シャルドネ・ワインを飲んでみましたが、筆者には飲めるものではありませんでした。
    生産者との対話においても、フルーツとミネラルの相関を重視している人は多くありません。この辺りに日本人のワイン造りの難しさを感じます。

    山形産シャルドネは長野産や外国産に比較すると、渋い苦味のような独特の残り味が感じられました。土の影響でしょうか。
    朝日町のブランデー(高野)からも、同様な苦味を感じます。特にグラスに注いで時間が経つ(酸化する)とこの傾向が強いようです。
    全般的に、日本の食事用ワインは、辛さにこだわりすぎ、不自然になっているような感じがします。日本料理にマッチさせるワインには、甘みと香りのバランス、ミネラルのバランスが重要ではないのでしょうか。限定生産のワインは消費対象を、もっと、もっと絞りこむべきとの感想です。国産ワインは難しい食事用にこだわる必要もないと思います。



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