王壮快のマーケッティング・コラム

ワインよもやま話:第十一話ヴァルポリチェッラのワインと大理石(その1)

2008年11月改訂

1.ヴァルポリチェッラ(バルポリチェッラ)(Valpolicella)とは

日本では、イタリアのヴァルポリチェッラは非常に知名度の低い地域です。よほどのイタリア通、ワイン通で無ければヴァルポリチェッラ・クラシコというワイン名を知る程度です。日本の地図にはヴァルポリチェッラ地域が記載されていることはほとんどありません。
ヴァルポリチェッラはヴェネトからロンバルディアにまたがって広がる地域ですが、経済の中心地ロンバルディア州を主要消費地にするヴェネト州最大のワイン産地です。近郊には世界遺産の町であり、ロミオとジュリエットの物語でも有名な、ヴェローナがあり、春にはイタリア最大のワイン見本市、ヴィニタリー(Vinitaly)が開かれます

また、ヴァルポリチェッラ地域はローマ時代から、建築、土木や装飾に使用する大理石を大量に産出することでも知られています。代表的なのがロッソ・ヴェローナ(赤色の大理石)、ピエトラ・ディ・プルーン(白やベージュの石灰岩)と呼ばれるものです。ヴァルポリチェッラ近郊は、イタリアの石材加工産業の34%以上を占めており、ヴェローナでは秋に石材産業の国際見本市マルモマック(Marmomacc)が開催されます。春にはマルモマックが、もう一つの大理石大生産地であるトスカーナ地方のマッサ・カラーラでも開催されますが、マッサ・カラーラではビアンコ・カラーラと呼ばれる白色大理石を大量に埋蔵しており、ミケランジェロを始め、世界中の建築家、彫刻家が使用してきました。イタリア各地のワイン産地は、世界的に著名な大理石の品種を産出し、ブドウ栽培適地と大理石産業との相関が立証されています。

2.フランスがリードしてきた世界のワイン市場

ヨーロッパのワイン生産量はスペイン、イタリア、フランスが拮抗していますが**、日本ではフランスワインが飛びぬけて普及しており、昔も今も百貨店、専門店のワイン売り場はフランス産が主役です。
歴史的に、フランスには高級ブランドを自称する生産者が多く、海外でのフランスワインは、貴賓料理とされるフランス料理とともに、各国の王室、政府、高級レストランを中心に発展してきました。フランスのワイナリーは単位当たりの生産量が比較的大きかったこと、世界を海洋制覇していたイギリスがボルドーを領地にしていたことも世界に普及させる原動力だったかもしれません。
他のヨーロッパ各国のワイン産業は、歴史はありますが、自家消費、地域消費を主とする零細なワイナリーが中心です。現在でも他地域への出荷は協同組合扱いが40-60%といわれます。
料理に関してはフランス以上の伝統を持つイタリア料理は、移民により紹介されて海外に拡がったようです。移民出身地のカジュアル料理がほとんどでしたから、海外に広がったのはテーブルワインが中心で、高級ワインは不要だったのでしょう。日本でもイタリアワインにはマーケッティングが不在でした。


イタリー、スペインの高級ワインがフランスワインに大きく遅れをとっていたのは、世界戦略を求める産業規模ではなかったことなどもありますが、ブランド呼称を重視しない国民気質もあるでしょう。原産地呼称制度を早くから確立し、ソムリエ制度の創設などで、ワインの普及を図るフランスとは、マーケッティング力にも圧倒的な差がありました。
**イタリアはフランスと並んで世界一のワイン生産国です。ぶどう栽培面積は、約92万ha(黒ぶどう65%、白ぶどう35%)、年間ワイン生産量 は、約590万キロリットルです。

3.イタリアワインの将来性とフランスワインの凋落


(写真)ヴァルポリチェッラの村
イタリーの高級ワインの大部分は中部から北部にかけて産出されます。ヴェネト、ロンバルディア、ピエモンテ、エミリア・ロマーナ、ウンブリア、トスカーナの各州です。おのおのが特徴ある品種のブドウを栽培しており、優れたワインを産出しています。
ピエモンテとトスカーナのワインは大手販売業者が取り扱っているため、比較的日本でも知られています。特にトスカーナは海外市場で分かりやすいDOCG, DOCの格付け取得に熱心ですから、日本市場の好みといえます。この地方近辺出身者のレストラン進出が早かったことも普及を促進しました。
しかしながらイタリア北部やヨーロッパの食通にはヴェネト州ヴァルポリチェッラの赤ワインが、他の産地のDOCGクラスにも優り、高い評価を受けています。
北イタリアの生産者は気位が高く、制限の多いDOCGクラスの指定を必ずしも好みません。ヴェネト州ではソアーベ地域とバルドリーノ地域が議論の末DOCG指定を受け入れ、2001年収穫分からDOCGクラスを販売しますが、最大産地のヴァルポリチェッラ地域は、いまだに未指定です。

4.イタリーの高級ワイン産地とヴァルポリチェッラのワイン

イタリーの高級ワインの大部分は中部から北部にかけて産出されます。ヴェネト、ロンバルディア、ピエモンテ、エミリア・ロマーナ、ウンブリア、トスカーナの各州です。おのおのが特徴ある品種のブドウを栽培しており、優れたワインを産出しています。
ピエモンテとトスカーナのワインは大手販売業者が取り扱っているため、比較的日本でも知られています。特にトスカーナは海外市場で分かりやすいDOCG, DOCの格付け取得に熱心ですから、日本市場の好みといえます。この地方近辺出身者のレストラン進出が早かったことも普及を促進しました。
しかしながらイタリア北部やヨーロッパの食通にはヴェネト州ヴァルポリチェッラの赤ワインが、他の産地のDOCGクラスにも優り、高い評価を受けています。
北イタリアの生産者は気位が高く、制限の多いDOCGクラスの指定を必ずしも好みません。ヴェネト州ではソアーベ地域とバルドリーノ地域が議論の末DOCG指定を受け入れ、2001年収穫分からDOCGクラスを販売しますが、最大産地のヴァルポリチェッラ地域は、いまだに未指定です。

5.ヴァルポリチェッラ(Valpolicella)の地理

ミラノはイタリア経済の最重要都市です。ヴェネト州はピエモント州とともに、この大消費地を背景にしています。ミラノからヴェネチア湾に向かっては4本の主要河川から形成される*、イタリア唯一の大平野が拡がりますが、ヴェネト州はこの豊かな大平野のアルプス側山地に広がります。イタリアは平地の少ない国です。ほとんどの地域が1,500mから2,000mの山脈に囲まれているために、この大平野を持つ北部一帯がイタリア経済を支えており、人口の半分以上が集中しています。
*ミラノからヴェネチア湾に向かう4本の主要河川

  • ポー川(Po)。北のオロビエ・アルプスとレホンティーネ・アルプスを源流とする。
  • アッジ(アディジェ)川(Adige)。ドロミテ・アルプスとオルトレス山を源流とする。
  • ピアーヴェ川(Piave)。ドロミテ・アルプスとオルトレス山を源流とする。
  • タグリアメント川(Tagliamento)。カルニスケ・アルプスを源流とする
    ワインと大理石の世界的な産地、ヴァルポリチェッラ(Valpolicella)の町や村は、ヴェネト州のヴェローナ市(Verona)北西部に位置します。この辺りは、アルプスから連なるレッシーナ山脈(Lessinia mountains)の山麓地帯です。
    ヴァルポリチェッラはラテン語とギリシャ語との造語といわれますが、「酒蔵の谷」という意味です。
    「酒蔵の谷」はネグラール(Negrar), マラーノ(Marano)、フマーネ(Fumane)の3本の渓谷で形成され、この渓谷がヴァルポリチェッラ・ワインの中心的生産地となっています。現在これらの渓谷はブドウ以外にも、プラム、杏などの果樹園が広がることで有名です。この渓谷の他、ヴァルポリチェッラのブドウ畑はアッジ(アディジェ)川(Adige)沿いの高原、キウーザ(La Chiusa) からベローナよりのパローナ(Parona)まで広がります。

  • 6.ヴァルポリチェッラ・ワインの呼称と行政区域


    現在の行政的なヴァルポリチェッラはヴェローナ地域の北西に隣接する7つの地域(*下記1参照)で構成されますが、歴史的な行政範囲の変遷故に、ヴァルポリチェッラ・ワインの呼称ではヴェローナの東地域(*下記2参照)やベローナ市の一部も含まれます。反対にアッジ(アディジェ)渓谷に位置するヴァルポリチェッラ行政地域内のブドウ栽培業者には、ヴァルポリチェッラを名乗らないワイナリーもあります。
    *1:7つの地域(ワインラベルに記載されることがあります)(カッコ内数字は人口/2000年)
    Pescantina(12,405)、San Pietro in Cariano (12,489)、Negrar(16,180)、Marano (2,882) 、Fumane(3,816)、Sant'Ambrogio( 9,678)、 Sant'Anna d'Alfaedo (2,459)
    *2:ヴェローナの東地域:Cerro Veronese(2,038)、Grezzana (10,043)、S. Martino (13,087)、Lavagno(5,961)、Mezzane (1,879)、S. Mauro di Saline (568)、Tregnago (4,897)、Illasi (4,855)、Colognola ai Colli( 6,914)、Cazzano di Tramigna (1,301)、 Montecchia di Crosara(4,189)この他、北東部のDolce(2,195)(Volargne)、Valpentena渓谷、Valtramignaやヴェローナ地域のパローナ(Parona )が含まれることもあります。


    7.ヴァルポリチェッラのブランド・ワイン

    ヴァルポリチェッラのDOCワインの総生産量は全国第4位の3000万リットル以上になります。
    ヴァルポリチェッラで最も有名なDOCワインがコルヴィナ種で造られる*アマローネ、ヴァルポリチェッラ・クラシコ、レチョートです。

  • アマローネ(Amarone della Valpolicella)
  • ヴァルポリチェッラ・クラシコ(Valpolicella Classico)、(Valpolicella Classico Superiore)
  • レチョート(Recioto della Valpolicella)
    上記DOC赤ワインのブドウ品種
  • コルヴィナ(Corvina)、
  • ロンディネーラ(Rondinella)、
  • モリナーラ(Molinara)
    ヴァルポリチェッラの高級赤ワインはブドウのタンニンがやや不足していると認識されており、これを補うためにアマローネを造るときの絞り滓(pomace)を加えて醸造(リパッソ、ripasso)してきました。最近のワイナリーは、これに加えて樽醸造(バリック、barriques)過程の技術を使うこともあります。タンニンを強化することによりリコリス(licorice)の風味(licoricy)が加わります。

  • 8.ヴァルポリチェッラのアマローネ・ワイン

    ヴァルポリチェッラで最も著名なのがアマローネ・ワイン(amarone)です。世界的にも名が知られており、キャンティ(Chianti,)、アスティー(Asti)、ソアーヴェ(Soave)、に次いでイタリア第4位の売り上げがあります。年々伸びており、90年には50万本足らずであった販売量が2000年には400万本を超えるようになりました。

    アマローネはコルヴィーナ・ヴェロネーゼ種(Corvina Veronese)、ロンディナーラ種(Rondinella)、モリナーラ種 (Molinara)などを使用した、アパッシメント法(appassimento)のワインです。
    アパッシメント法とはブドウを摘んだ後に、陰干しをして35-40%の水分を抜いてから醸造する方法です。英語ではウィザーリング(withering)と呼ばれています。
    歴史的にアマローネはレチョート(Recioto)と区別されていませんでした。アマローネはローマ時代からヴァルポリチェッラ地域のアンブロサン(Ambrosan)、サンピエトロ・カリアーノ(S. Pietro in Cariano)などで製造されていた記録があります。古くはレチクム(reticum)、 その後はアシナチクム(Acinaticum)と呼ばれていました。ヴァルポリチェッラ地域では赤ブドウでレチョート(Recioto della Valpolicella)やアマローネを造っていましたが、近隣のソアーヴェ(Soave)地区では、古くから白ブドウを使用したレチョート(Recioto di Soave)を造っていました。近年になり、海外や他地域の消費者が赤ワインのレチョートとアマローネ、白ワインのレチョートが区別できず、混乱がおきてきましたので、アマローネとレチョートは1991年に区別され、おのおのにDOC指定がされました。今でもアマローネ・レチョート・ヴァルポリチェッラという呼称があるのは、懐古的な生産者によるものです。
    現在のレチョート・ワインは糖度の高いデザートワインを指し、アマローネ・ワインは糖度の低いワインということになっています。
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