王壮快のマーケッティング・コラム

キャビア博士:第四話 「日本のキャビア産業」

1.日本に生息したチョウザメ

日本でも古くは北海道の石狩川、天塩川などで多数のチョウザメが捕獲されています。
種類は主として樺太(サハリン)やシベリアなどに産するサハリン・チョウザメ、別名ミカド・チョウザメ(Sakhalin Sturgeon )(Acipenser mikadoi )*です。ただし魚卵(キャビア)を食する文化についての報告や文献は少ないようです。
北海道近海では、現在でもたまにはダウリアチョウザメ(シベリア・オオチョウザメ)(Kaluga Sturgeon)(Huso属Huso.dauricus)を主に、サハリン・チョウザメ(Acipenser mickadoi)やアムールチョウザメ(Acipenser schrencki)の漁獲報告があるようです。
最近では茨城県沖合でサハリン・チョウザメが捕獲され、大洗のアクア・ワールドで飼育されています。
*サハリン・チョウザメはチョウザメ(グリーンスタージョン、Green Sturgeon)(Acipenser medirostris)と通称される品種と同種または亜種という学説もあります。


2.日本のキャビア文化

日本には、いくら、数の子、たらこ、とびっ子、ぼらっこ(からすみ)など、多様な魚卵を食する伝統文化があるために、キャビア文化の歴史も浅く、キャビアへの関心は薄かったと言っても良いでしょう。
日本人とキャビアは国内での接点が非常に少なかったのですが、海外渡航が自由化された1960年代ごろからは、海外でキャビアに接する人が増え始めました。バブル期の絶頂期には世界のキャビア主要輸入国ともなりました。ただし現在の輸入量は世界生産量の10%にもなりません。

3..日本人とキャビアの接点:キャビアの日本史

キャビアを普及させているのは、内外を問わず旅行業界です。現在の豪華客船、航空機での長距離航路、ホテルでのパーティーでは、キャビアがディナーの演出小道具の必需品となっています。しかしながら、これも日本では第二次大戦後の流行といえます。
昭和初期(1930年代)の欧州旅行は航路が主体でしたが、当時の日本郵船1等船客のメニューを見る限りキャビアはありません下記メニュー参照。 
反対に急ぎ旅に利用するシベリア鉄道では一等食堂車でキャビアが供されました。最大の生産国ロシアならではです。
1930年代にベルリンからシベリア鉄道で帰国した知人の話では、2週間以上の長旅は食事が最大の楽しみですから、暇に任せて何度も食堂車に通い、親父の勘定で美味なキャビアをたらふく食べたそうです。ハルピン到着後に高額な勘定書きを見たおやじが烈火のごとく怒ったという話です。1910年ごろ(大正時代の始め)には、チョウザメの漁獲量は急減し、キャビアはすでに高級品となって、ほとんどの人には縁がありませんでした。

冷蔵技術が未熟であった昭和初期は、薄塩キャビア(マロッソル・キャビア、malossol)が中心でしたから、大変な貴重品で、ロシア大使館位しかなかったといいます。(イラン大使館の当時の事情はわかりません)
ロシア大使主催の晩餐会では、テーブルのセンターに山盛りされたマロッソル・キャビア(malossol)を、紳士淑女が我先に食したといいます。この時ばかりは気取っていられなかったのでしょう。それほどの美味な魅力がマロッソル・キャビアにはあります。
現在は保存の利く塩漬けキャビアが普及していて、薄塩のマロッソル(malossol)には、めったにお目にかかれません。


1933年箱崎丸(土曜日)、1935年靖国丸(金曜日)のディナー・メニュー。箱崎丸のメニューにはオードーブル各種という表現がありますが、乗船者の話ではキャビアが供された記憶はないそうです。

箱崎丸クリックして拡大箱崎丸のディナー・メニュー
靖国丸クリックして拡大
靖国丸のディナー・メニュー




4.日本の養殖キャビア

キャビア市場が小さいために、養殖は欧米ほど盛んではありません。現在は北海道、宮城、茨城、神奈川、宮崎など各県で、微量ながら養殖が試行されています。品種は研究用を別にすればベステル種チョウザメ(Bester)(HP前編参照)がほとんどです。技術者も不足しており、米国、ヨーロッパに較べればコストが高く、商業ベースのキャビア生産には時間がかかりそうです。

  • 北海道の美深町(北海道上川支庁中川郡)に養殖の歴史があります。ソビエト原産のオオチョウザメとコチョウザメの交配種であるベステル種チョウザメ(HP前編参照)を1986年に導入していますが、いまだキャビアの採卵は微量です。

  • (株)サンロックが漁協とともに、マツカワ(カレイの種類)、ベニジャケ、チョウザメ肉の生産に取り組んでいます。(株)サンロック(釜石市大字平田 3-75-1)は平成7年4月に、日本水産(株)、ニチモウ(株)、新日本製鐵(株)、日産建設(株)、東北電力(株)など17法人と岩手県や釜石市が出資して、第三セクター方式で設立されました。キャビア生産はまだ微量です。魚肉、キャビア採卵用にはベステル種チョウザメ(Bester)が飼育されています。(株)サンロックは各県養殖業者への数種類のチョウザメ稚魚の供給元ともなっていますが、ここで飼育されたヘラチョウザメ、アムールチョウザメ、シロチョウザメがアクアマリン福島で見ることが出来ます。

  • 浄水システムなどのバルブ・メーカーである大阪のフジキン(株)が茨城県のつくば市に800tの水槽を備えたチョウザメ養殖プラントを設けています。
    キャビアの年産量は60キロぐらい。僅かながら、すでに体重10キロ前後のベステル種チョウザメをレストラン向けに出荷しています。活魚で出荷されたチョウザメからは10%前後のキャビアが採卵できるといいます。価格は1匹20万円前後。安くはありませんが、採れたてのキャビアを食することが出来るのが魅力です。
    チョウザメよりキャビアを破壊せずに採卵する技術は難しいというのが国際的な常識ですが、フジキンの話ではレストランのコックでも採卵できると話しています。
    現時点で、年間の採卵用出荷可能数は60匹くらい、食肉用ならば、4,000匹が出荷可能ということです。 



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