王壮快のマーケッティング・コラム

キャビア博士:第三話 フランスがリードするヨーロッパのチョウザメ養殖

カスピ海の漁獲制限強化と国際的な希少動物保護の世論を受けて、危機感を持ったヨーロッパではフランス、イタリア、ブルガリア、スペイン、ドイツなどでチョウザメ養殖産業の投資拡大と代替品の開発が盛んになりました。
チョウザメの飼育魚が成熟期を迎える2005-2006年にはキャビア生産量が急増すると言われます。

1.ヨーロッパのチョウザメ養殖はシベリア・チョウザメが主流

養殖品種の主流であるシベリア・チョウザメ(Acipenser baeri、Acipencer baeri baeri)の2002年飼育魚重量はフランスが200トン、イタリアが120トン(ハイブリッド種を含む)、ドイツが10トンくらいです。
現時点での性的成熟済みの成魚の比率はわかりませんが、2002年のキャビア生産重量は、飼育魚重量の数パーセントです。

2.フランス産キャビアの歴史とチョウザメ養殖

フランス語のキャビア(Khavia)はトルコ語です。フランスに最初にキャビアが持ち込まれたのは、オスマントルコ時代であることが想像できます。
イタリア料理がフランスにもたらされた時代に、キャビアが紹介されたという説もありますが、定かではありません。
フランスには過去に大西洋チョウザメ(Acipenser Sturio)がジロンド川(Gironde)とその上流のガロンヌ川(Garonne)、ドルドーニュ川(Dordogne)に生育していた歴史があります。大西洋チョウザメはバルトチョウザメ(バルチックチョウザメ)ともいわれ、北大西洋のヨーロッパ沿岸、アメリカ大陸沿岸に生息していました。

(写真)バルチックチョウザメ




この頃のフランス人庶民には卵(roe)を食する習慣がなく、フランス庶民にキャビアの食習慣が持ち込まれたのは、共産革命を逃れて移住した白系ロシア人を言われます。
ポアトゥ・シャラント(Poitou-Charentes)などフランス大西洋沿岸地方の地元漁民や消費者はチョウザメの魚肉のみを食して卵を捨てていたそうです。 風光明媚な、このリゾート地に滞在していた亡命ロシア王朝のプリンセスが、それを見て驚き、卵が美味、貴重であることを教えたといわれます。
サン・スーリン・デュゼ(St-Seurin-D'Uzet)の博物館に姫が忘れた傘が何故か飾られているそうです。


フランスでは1980年代に、海産物養殖のベテラン、イギリス人の海産生物学者アラン・ジョーンズ(Alan Jones)によって養殖が始められました。イギリスの酸素メーカー(BOC - the British Oxygen Company)の委嘱を受けたものです。ポアトゥ・シャラント地方のシャラント・マリティム県(Charente Maritime)


3.アキテーヌ地方(Aquitaine)のチョウザメ養殖

養殖地には南西のアキテーヌ地方(Aquitaine)のボルドーに近い、サン・フォート(Saint-Fort-sur-Gironde)(ジロンド県)が選ばれ、1982年に、養殖が始められました。チョウザメ種にはシベリアよりシベリア・チョウザメ(学名:Acipenser baeri)が選択されました。
どのような理由かはわかりませんが、1990年代初めになると英国の親会社は事業地をスペインに移すことを指示しました。フランスに愛着を持っていたジョーンズは転地に反対し、事業をこの地で独自に継続することになり、1999年ごろから、商業ベースのキャビア採取が始まっています。

4.フランス産キャビアの生産量と価格

アラン・ジョーンズ達によるフランス最大のスタージョン社(スチュルジョン社)が1999年に出荷を始めたときは400-500kgでした。事業は順調に進み、5年後には2.5トンのキャビアを出荷し、1.400万フランの売上を記録しました(1kgあたり卸価格、およそ7,100から8,000フラン)。
アキテーヌ県を中心とするフランス南西地方全体では、2002年にシベリア・チョウザメ・キャビアを6-6.5トン生産*しています。
スタージョン社は2003年には5トンの出荷を目標にしていたようですが、実績は未確認です。
*2002年にすでに5トンくらい生産したという説もあります。

スタージョン社に投資している大手商社のフランス・キャビア社によると、仏国産高級ランクのキャビア(French Baeri Malossol Caviar)はイラン産のオシェトラ種キャビアの普通品価格とほぼ同じ程度です。
マーケットでは50グラム、60ユーロくらいで販売されています。

日本や米国ではチョウザメ以外の魚卵(roe)でも、親魚の表示があればキャビアと謳うことが出来ますが、フランスでは、チョウザメの卵のみにキャビアの表示が許されます。

5.チョウザメ養殖のベテラン、アラン・ジョーンズ(Alan Jones)

アラン・ジョーンズ(Alan Jones)はひらめとカレイの養殖専門家。
現在ではアメリカのエングストローム氏(Mats Engstrom)と並ぶキャビア生産の専門家です。東アングリア大学(University of East Anglia、 Norwich Norfolk UK環境科学で著名)で「ヒラメとカレイの生態」(The Biology of Turbot and Brill)という論文を書いています。水産研究で有名な英国のローズトフト研究所(Lowestoft laboratories)に勤務。推定年齢70歳以上。ローズトフト研究所は100年を超える伝統を持つ世界的な海洋研究所で、英国農水産省(MAFF)(Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries)食品環境局(DEFRA) )(Department for Environment, Food and Rural Affairs)の傘下である農水産環境科学センター(CEFAS) (Centre for Environment, Fisheries and Aquaculture Science)が運営しています

6.スタージョン社(スチュルジョン社)

スタージョン社(スチュルジョン社)(SCEA社:Societe Caviar Esturgeon Aquitaine)
アラン・ジョーンズは独立するに際して三つの養魚場を所有する会社社長、ジャン・ブシェール(Jean Boucher)をスポンサーに、スタージョン社(スチュルジョン社を1995年に設立しました。場所はコニャック近郷のジロンド川に近いサン・ジェニ(Saint-Genis-de-Saintonge)です。 *Sturgeonのフランス語がEsturgeon。スタージョン社はフランス発音ではスチュルジョン社。
アキテーヌ地方(Aquitaine)の代表的キャビア生産会社のブランドはストゥーリア(スチューリア)(Sturia)です。
アキテーヌ地方にはいくつかの零細な養殖池があり、組合などもあるようですが、キャビアの生産、全国的な流通は数社の企業によるものです。

  • スタージョン社(スチュルジョン社)(SCEA社:Societe Caviar Esturgeon Aquitaine)STURIAブランド販売の主体会社。アラン・ジョーンズ達が設立。
  • ECLOSERIE DE GUYENNE社。STURIAブランドで販売。
  • CAVIAR ET PRESTIGE社。STURIAブランドで販売。
  • BAERIA
  • Phillipe d'Aquitaine


7.イタリアのチョウザメ養殖はシロチョウザメ

イタリアのキャビアの歴史はフランスより古く、世界最古の国の一つです。ローマ時代にはアドリア海やポー川(Po)のアドリアティック・スタージョン(Adriatic Sturgeon)(Acipenser
naccari Bonaparte)を漁獲して、キャビアを食する文化を持ったといわれます。 
米国同様、上流階級にはキャビアに執着があり、養殖キャビアを商業ベースに完成させている、数少ない国です。
性的成熟魚が急増する数年後にはキャビア生産量が急増すると思われます。イタリアはアドリアティック・スタージョンから養殖が始まったようですが、現在はシベリア・チョウザメとアメリカのシロチョウザメ(Acipenser transmontanus)が中心です。シロチョウザメの飼育数が多いのが特徴的です。
1978年に設立されたうなぎ養殖会社、アグロイチカ社(Agroittica Lombarda 、Viadana di Calvisano ,Brescia,Lombardy)によって、シロチョウザメ(White Sturgeon)がカリフォルニア大学デーヴィス校(University of California, Davis University)より導入され、養殖されています。白チョウザメ(HP前編参照)はフランスで養殖されているシベリア・チョウザメよりさらに大きく、体重300 kg位まで成育するそうです。1992年より出荷が始まり、カルヴィシュース<(Calvisius)というブランド名がつけられています。アグロイチカ社(Agroittica)の現在の養殖量は年間600トンの規模で、3トンのキャビアを抽出しています。イタリアのチョウザメ養殖ブランドはカルヴィシュース(Calvisius)


8.ブルガリアのチョウザメ養殖はロシア・チョウザメ

ブルガリアは微量ながら天然(放流)キャビア生産国です。ハンガリーなど東ヨーロッパ各国を通過して、黒海に注ぐダニューブ川(Danube River)は過去に多数のチョウザメ(カスピ海産種)が生息していました。 激減したとはいえ黒海にはチョウザメ(カスピ海産種)が生息しています。
ブルガリアでもダニューブ川において1997年からチョウザメの養殖放流が始まっています。1998 -2000年には200g位の幼魚(fingerlings)60,000匹が放流されました。品種はオシェトラ・キャビア(Osetra caviar)を産するロシア・チョウザメ(Acipenser gueldenstaedtii)とシベリア・チョウザメ(Acipenser baeri)のハイブリッド種です。
稚魚の孵化養殖池は南部の風光明媚な古都プロヴディフ(Plovdiv region)*にあるそうです。プロヴディフは赤ワインなどを産する農業の中心地帯です。1999年からは首都ソフィア(Sofia)の近郷で人工水での成魚養殖も始まっているといいます。*Boliartzi village、Ovcharitza dam reservoir



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