
シリーズ第1回 禁断の実を食べ始めた日本のトランス脂肪対策(日本のマーガリン13のなぜ?)
トランス脂肪酸の有害性が認知され、世界の食品業界はその排除に真剣に取り組んでいます。
2002年よりこの問題の広報に取り組んでいたノギボタニカルでは、新年の2008年よりトランス脂肪酸に対する各国の取り組みを順次ご紹介していきます。
アトピー、肥満、心臓血管病など諸悪の根源と言われるトランス脂肪酸は食品業界に深く侵入しているだけに追放は容易ではありません。
特にその完全な排除は低所得層を直撃するだけに、世界に先駆けてレストランなどからの追放宣言をしたニューヨーク市でさえ違反に対しペナルティーを科することに躊躇しているのが現状です。
1.禁断の実を食べ始めた日本のトランス脂肪対策(日本のマーガリン13のなぜ?)
i.マーガリンがなぜトランス脂肪追放の標的に?
日本のゼロトランス機運はマーガリン業界からスタートしています。食べるプラスチックと悪評され、トランス脂肪の含有量が加工食品中で最も多いからです。これまでは植物性油脂でマーガリンの形状を維持するにはトランス脂肪が必須でした。
ii. マーガリンはなぜ必要な食品なのでしょうか?
マーガリンはバター不足解決の産物です。19世紀中ごろに「人造バター」として開発された当初は牛脂を利用していましたから、天然のトランス脂肪以外は含有されなかったといわれます。日本でも大戦後の食糧難の時代にはバターの代用品としての役割がありました。その後食品が豊富になる頃には「動物性脂肪分が無い健康食品」として取り上げられるようになりました。
コスト面からもバターを使用していた加工食品の相当部分がマーガリンに代替されています。
iii. 日本のマーガリンはどの程度のトランス脂肪酸が含まれているのでしょうか?
数年前に較べてトランス脂肪酸は減少しつつありますが、植物性油脂を使用しているものはゼロトランスではありません。
iv. 日本ではトランス脂肪酸をどのような方法で減少させるのでしょうか?
過去の特集でも危惧していた禁断の実(遺伝子組み換え、飽和脂肪酸)を選択しているようです。いまだに新しい解決法が見つからず、欧米の技術に追従するしかないからです。
米国では遺伝子組み換えの新種菜種(融点の高いオレイン酸含有量を増加させた新種キャノーラのナトレオン)、新種大豆(モンサントのヴィスティブVistiveなど)と、飽和脂肪酸のパームオイル(ローデルス・クロックラーンのSansTrans RS39 T20など)、牛脂(タロー)がゼロトランスの主流となりました(詳しくはシリーズ「米国のトランス脂肪酸追放」でご紹介します)。
v. 米国では遺伝子組み換えや飽和脂肪酸での解決は問題が無いのでしょうか?
アメリカではスーパーなどで販売される食品の70%以上が遺伝子組み換え食品といわれますから、遺伝子組み換え食品は「禁断の実」ではありません。
遺伝子組み換え農産物は米国が本拠のダウ、モンサントという大化学会社が主導しています。
パームオイルやタローによる飽和脂肪酸の代替は米国でも「禁断の実」です。議論が無いわけではありませんが、トランス脂肪よりマシと言うことです。
vi. 日本ではなぜ遺伝子組み換えや飽和脂肪酸が「禁断の実」なのでしょうか?
EUや日本は遺伝子組み換え食品に拒絶反応があります。食品としての歴史が浅く、後年になり「やはり危険な食品だった」という可能性がぬぐえないからです。
世界の生産量の大部分が遺伝子組み換え品種である大豆、菜種(キャノーラ)、トウモロコシは全て輸入品です。日本では作付けがありません。「遺伝子組み換え食品(GMO)が嫌われる10の理由2005年06月13日(no.2005061326)を参照してください」
vii.日本のマーガリンはどのメーカーが「禁断の実」を採択しているのでしょうか?
ほとんどのマーガリンは原料に「食用植物油脂、食用精製加工油脂」とのみ表示をしています。
これだけでは消費者に原料の種類や混合程度はわかりません。
遺伝子組み換え品は、このような加工品には表示義務がないからです。
しかしながら一般的に食品製造業者が自信のある原料には「非遺伝子組み換え」という表示があります。
特別の表示が無い場合は遺伝子組み換え原料、パームオイルなどの飽和脂肪酸を使用していることがほとんどでしょう。
これまでの大衆的な食用油、油脂も大豆、菜種、トウモロコシなどは、ほとんどが遺伝子組み換えですが、トランス脂肪を減少させたナトレオンなどの新品種は歴史のより浅い製品ですから警戒されています。
viii.「禁断の実」を食べないで済むマーガリンは無いのでしょうか?
ユニリーバ(Unilever)が海外で販売しているステロール・マーガリン(Take Control)が日本リーバと提携したJオイルより発売されています。
これはフィンランドで開発されたステロール油脂(sterol, stanol esters)のデザイン・マーガリン、ベネコール(第5項に参考記事があります)と同様なものです。
ix. ステロール油脂のマーガリンは安全食品なのでしょうか?
ステロールそのものにはトランス脂肪はほとんど含まれていませんが、ステロール油脂のマーガリンにはコレステロールを低下させてしまう作用(平均的に約10%といわれる)やA,Eなど脂溶性ビタミンの吸収を損ねる作用があります。コレステロールの過剰低下は正常な細胞組織を損傷し病原菌に侵されやすくなります。コレステロールは細胞膜皮質の重要な構成要素だからです。がん患者のコレステロール値は極端に低くなることが知られています。
過剰摂取は危険ですから、ラベルには過剰摂食を防ぐ注意書きと「植物ステロールは、β-カロテンの吸収を抑制することがありますので、果物、野菜類と共に摂取してください」という意味の表示があります。判り難い表現ですが、これはステロール油脂によりベータカロチン(カロテン)、ビタミンEなどが失われるので、野菜、果物で補いなさいということです。欧米では過剰摂食を予防のためにステロールエステル量の表示義務があります。
x. ステロール・マーガリンを常食してはいけないのでしょうか?
トランス脂肪酸の有害性が叫ばれる以前は高脂血症や心臓血管に問題がある人はマーガリンを使用してきました。バターの脂肪分が有害といわれたからです。
高脂血症患者にはコレステロール低下剤のスタチン剤(メバロチンなど)を服用している人がいますが、これにステロール油脂のマーガリンが加わるとコレステロールの過剰低下を招きます。
少なくとも医薬品を常用している方はトランス脂肪、植物性ステロールともにお奨めできません。
(詳しくは第2項のコレステロールを参照してください)。
xi. メーカーはなぜ危険なマーガリンを売り続けるのでしょうか?
日本のマーガリンも「禁断の実」を問題にしないならばトランス脂肪を減らした商品が増えています。
メーカーに問題意識が無いわけではありませんが、ゼロトランスでない商品を売り続けるのは「日本人の食生活はもともとトランス脂肪の摂食が少ない」「日本人はリノール酸の摂食が多いのでトランス脂肪の有害性を阻害できる」ということが根拠となっています。
これは日本の内閣府食品安全委員会のデータに基づくものですが、これによれば「日本国は米国と食生活が異なるのでトランス脂肪の害は非常に少ない」、「米国人の5.6グラム/日に較べればトランス脂肪の摂食は1-2グラム/日にすぎない」とのことです。
トランス脂肪の平均的摂取量の統計はトランス脂肪含有食品、植物性食用油、植物性食用油脂の生産量、販売量や食生活習慣から推量して重量、エネルギー比などを出していますが、信じがたい数字です。
米国のデータも4-5倍までの開きがありますから、食生活実態の統計は非常に困難です。
マグロの水銀含有問題に関して「日本人はマグロを食べる場合に平均2切れであるから問題はありません」と発表し、反論続出後に訂正した前例もあります。消費者個々が独自に食生活を分析するしかありません。一日2グラムまでを安全とする説も妥協の産物であり、根拠はありません。
トランス脂肪酸はフレンチフライの大で6グラム、焼きアップルパイ一個で4.5グラム、クロワッサン一個で2.8gの摂食量になりますから、無防備な人のほとんどは過剰摂食を疑っても良い状態です。規制の無い市場での日本人の摂食量は欧米より多いことも想像できます。(詳しくはトランス脂肪酸第二話--アメリカン・ブレックファーストとトランス型脂肪酸2005年02月10日 を参照してください。記載されている欧米のトランス脂肪データはその当時のもので、現在は相当量減少しています)
xii.トランス脂肪はなぜ追放できないのでしょうか?
トランス脂肪追放は食品の大幅なコスト高と言う問題が立ちはだかり、簡単ではありません。
実際には日本の食品メーカーもトランス脂肪の追放を模索していますが、いまだに行政的な制約が全くありませんから研究投資が充分とはいえません。原材料の高騰でミヨシ油脂(マーガリン、ショートニングなど油脂大手)などが赤字を出し、日清や味の素などの大手食用油メーカーも原料高騰で苦慮している現状では、低価格代替品研究への巨額投資がむつかしく、「禁断の実」の選択が早道となっています。
低所得者には「禁断の実」といえども選択する以外にはトランス脂肪の追放が不可能な現状は、この問題の根深さをうかがわせます。
xiii.どのメーカーのマーガリンが安全なのでしょうか?
このレポートはトランス脂肪追放に関するマーガリン市場のトレンドを報告するものです。
消費者がマーガリンを選択するためのデータを提供するものではありませんから、推薦商品はありません。
ほとんどのマーガリンは「食用植物油脂、食用精製加工油脂」と記されており、原料名やトランス脂肪含有量の明細が明記されていません。
開示の諾否はわかりませんが、消費者がメーカーごとに販売者に内容を問い合わせるしかないでしょう。
マーガリンは雪印乳業、明治乳業、小岩井乳業、Jオイルミルズ(味の素、ホーネンコーポレーション、吉原製油の合併会社)などがスーパーの常連ですが、ロイヤルホテル、帝国ホテルなどOEM商品も関東では広く販売されています。
これらの中で、原料名を明記していない大衆製品ラインの脂肪分に対するトランス脂肪の含有率は5-15%くらいと推量できます。
紅花油、トウモロコシ(コーン)油、オリーブ油、ゴマ油、亜麻仁油などが明記されているものはこれより少ないことが推測できます。
また、マーガリンと呼称されていても、JAS規格でファットスプレッドに分類される柔らかいマーガリンや、チューブタイプの製品はトランス脂肪酸が少ないといえます。トランス脂肪酸の役割である常温での固形化が必要ないからです。
ステロール油脂のマーガリンはJオイル(ラーマプロアクティブ)より発売されています。これは日本リーバが発売していたものです。
最近ではトランス脂肪酸が脂肪分の2%前後の製品もあるようですが、原料が明記されていないものは「禁断の実」である遺伝子組み換え原料やパームオイルなどを主体に、オレイン酸の多い植物性油脂を混合したものが主流と思われます。
クリックして拡大する2.コレステロールとは(参考) ビタミンCの摂取が重要
コレステロールは誤解されやすい成分です。コレステロールは、コントロール機能が正常に働かないと、アテロームが増加して心臓血管病の原因となることが知られていますが、アテロームは飽和脂肪酸や中性脂肪が、より大きな原因となるとも言われています。コレステロールを飽和脂肪酸や中性脂肪と混同されて理解している人が多いのが実態です。
コレステロールは体内(肝臓と小腸)で一日1,000mgは合成される遊離脂肪酸で、細胞膜、胆汁酸、ステロイドホルモン類、ビタミンDの原料として重要な役割を果たす成分です。
体内合成量は食品摂取による量の5倍以上とも言われます。
コレステロールは肝臓からコレステロールを必要とする細胞に搬送するために、血中ではたんぱく質と結合しています。この物質は脂質(英語ではリピド、lipid)とたんぱく質(英語ではプロテイン、protein)が結合しているため、日洋混合の言葉であるリポ蛋白(リポプロテイン)と呼ばれますが、これが一般に理解されているコレステロールです。
医薬品ではコレステロール合成酵素を意図的に阻害するものがありますが、コレステロールは体に重要な成分ですから、細胞膜機能低下など副作用もあります。
理想的なのはコレステロールを細胞膜や胆汁に変換させる努力をして、余剰分は胆汁や水溶性食物繊維とともに排出させることです。
これがコレステロールの正常な機能です。余剰コレステロールは排出が不十分になると、胆嚢や胆管結石の原因ともなります。
胆汁への変換にはビタミンCが補酵素の役割をしますから、十分なビタミンCの摂取が重要な対策となります。ビタミンCはコレステロール合成時に産生される活性酸素を除去する強力な抗活性酸素阻害剤でもあります。
3.エステル交換技術とは(インターエステリフィケーション)(参考)
マーガリン、ショートニングはトランス脂肪を生ずる水素添加化合(hydrogenation)によって食用油を安定させますが、酵素によるエステル交換によっても油に希望する機能と安定性を与えることが出来ます。EUでは遺伝子組み換え食品を拒絶していますから、植物性脂肪のエステル交換(interesterification)製品が主流です。
エステル交換は、油が酵素や酸により固形化し、構造変化することに関連する技術です。具体的に言えば、油の脂肪酸成分が他の有機物群と相互結合してエステル化します。
脂肪や油の自然的、化学的なエステル交換の促進過程は、酵素やその他技術の他動的なエステル交換より、はるかに安上がりな応用技術ですが、退色する難点があり、余分な工程が必要とも言われています。
工業的なエステル交換は酵素を使います。酵素は、脂質の消化酵素である天然のリパーゼを使用するケースが多く、ノボザイムズ(Novozymes)(デンマーク)の酵素(Lipozyme TL IM)が技術的にリードしているようです。
4.エステル交換(interesterification)食品の表示義務(参考)
FDAは昨年、ラベル表示の分類について重要な通達を出しました。エステル交換脂肪で、20%を超えるステアリン酸を含むものは、ラベルに「高ステアリン酸」または「ステアリン酸高含有」表示とともに、「エステル交換大豆油」などと記載しなければならないということです。ステアリン酸、オレイン酸などには動物実験で発がん性の報告があり、安全量限度がまだ不明ですから、消費者が選択できるよう、表示を必要とするということでしょう。
5.キャノーラオイルをエステル化(interesterification)したマーガリン.ベネコール(Benecol)(参考)
ベネコールはマックネイル・ニュートリショナル(McNeil Nutritionals, LLC)(ジョンソン・アンド・ジョンソンの栄養化学部門)から、栄養食品として販売されています。
ベネコールの主原料は樹皮成分やキャノーラ油をエステル化したもので、マーガリン様スプレッド(脂肪分が少ない)となっています。トランス酸はフリー(少量?)と公称しています。
ベネコールには悪玉コレステロール値を下げるというスタノール・エステル(Plant Stanol Esters)が添加されて販売されています。
スタノールは哺乳類のコレステロールに相当する植物性ステロール(エルゴステロール)の飽和型成分です。植物性ステロールはフィトステロールとも呼ばれ(Phytosterols)とも呼ばれています。
スタノールは植物性ステロール同様にLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を低下させる成分といわれ、少量ですが多くの野菜などに含まれています。
スタノールは1995年にフィンランドのイングヴァー・ウェステル(Ingvar Wester)が樹皮より開発しました。森林産業が盛んなフィンランドの森の副産物として開発されたといわれます。
(参考記事は過去にノギボタニカル・サイトに掲載されたものです)