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健康ひろば(旧・健康と食品の解説)

肥満と糖尿病はブドウ・レスベラトロールが予防する(レスベと糖尿病:第四話)

  1. 肥満と糖尿病のメカニズムに新たな展開
  2. 飽食の時代に先進国の永遠のテーマは万病の元である肥満防止ですが、飢餓が広がる国にはカロリー制限効果どころか、栄養失調と、不衛生や免疫力低下による感染症の拡大があります。食の問題は常に不公平ですが、健康を蝕む飽食を喜んではいられません。

    肥満の引き起こす心臓疾患や糖尿病に悩むドイツと米国からレスベラトロールの新しい情報が届きました。医学先進国のドイツは古くからハーブ類、鉱石類の生薬研究と解析が分子レベルで進んでいます。天然産物の医薬品への応用は30%を超え、米国を始め世界中がその成果、データを借用しているほどです。
    今回ご紹介する研究成果はドイツ南部のウルム大学(the University of Ulm)が米国の内分泌学会(The Endocrine Society)で報告したレスベラトロールの研究成果です。
    風光明媚なドイツ南部のバーデン・ヴュルテンベルク州に立地するウルム大学は、1967年創立された歴史の浅い大学ですが、医科学振興に注力する政府の全面的援助と近隣(シュトゥットガルト)のダイムラー・ベンツなど自動車メーカーを筆頭に、産業界からのサポートがあり、ドイツでも有数の自然科学専門大学に発展しています。ウルム(Ulm)は物理学者アインシュタインが生まれた街としても知られています。

    同時期に米国からは伝統あるハーバード大学公衆衛生スクール(HSPH)の研究成果が到着しています。ハーバード大学公衆衛生スクールは1922年に近隣のMIT(マサチューセッツ工科大学)などと設立された大学卒業生の衛生関係公務員養成学校です。
    ハーバード大学医学部はレスベラトロール研究で先進しており、日進月歩の機能解明には世界が注目しています。

  3. 脂肪細胞の肥大化と脂肪細胞前躯体(preadipocyte)の増殖をレスベラトロールが防ぐ
  4. 2008年6月15日からサンフランシスコで、世界最大、最古の米国内分泌協会第90回定例総会が開催されました。会期中の6月17日にプレゼンテーションされたウルム大学(ドイツ)女性研究者の肥満のメカニズムに一歩近づいた研究が注目されました

    「肥満との戦いにブドウ・レスベラトロールが役立つだろう」(Red wine's resveratrol may help battle obesity)

    レスベラトロールにカロリー・リストリクションと同様の効果があるならば「脂肪細胞のサイズを変える機能の有無も探求したい」「脂肪細胞数の増加、脂肪細胞の肥大化による肥満をブドウ・レスベラトロールが抑制するはずである」。これが研究者のテーマでした。

    発表者はウルム大学医学部糖尿病、肥満部門の小児内分泌学研究者であるパメーラ・フィッシャー・ポソーブスキー博士らです(Pamela Fischer-Posovszky)
    分子レベルで行なわれた実験は人間の脂肪細胞(adipocyte)を造る前躯体の株組織(a strain of human fat cell precursors)を使用して行なわれました(実験詳細は省略)。この株組織は脂肪細胞前躯体(preadipocyte)と呼ばれます。前躯体の増殖を抑え、かつ前躯体が脂肪細胞化するのを防止するか、脂肪細胞化した細胞への脂肪蓄積量増大を抑制すれば肥満は防げることになります。実験結果では仮説どおりのブドウ・レスベラトロール機能が確認されました。

  5. ブドウ・レスベラトロールによる脂肪細胞炎症の抑制
  6. 実験で最も注目すべきはブドウ・レスベラトロールが脂肪細胞より分泌される蛋白物質(悪玉サイトカイン)の産生を抑える機能でした。この悪玉サイトカインは、脂肪細胞炎症の元となるインターロイキン6と8(interleukins 6 and 8)と呼ばれるサイトカインです。
    サイトカイン(cytokine)は免疫情報を伝達するたんぱく質です。
    肥満が誘発する心筋梗塞、糖尿病など各種の疾患は脂肪細胞の炎症と関連付けられています。
    エネルギー源を貯蔵するだけと思われてきた脂肪細胞が多様なストレスにより、多様な機能を持つ蛋白物質を分泌することが解明されてきたのは比較的最近のことです。

  7. ブドウ・レスベラトロールはアディポネクチン生成を促進する
  8. アディポネクチン(adiponectin)は脂肪細胞中のコラーゲン様たんぱく質です。アディポネクチンは心臓発作のリスクを軽減するといわれますが、肥満はアディポネクチン量を減少させることが知られています。この実験ではブドウ・レスベラトロールがアディポネクチンを増加させることも確認されました。(アディポネクチンが国際的に通用する名称かは不明)

    *(編集者注)論文の筆者はレスベラトロールが女性ホルモン様の機能を持つことを示唆しています。現段階では乳がん、子宮ガンが推定される方の摂食はお奨めできません。

  9. 脂肪細胞の炎症を抑える物質と、その伝達経路の発見
  10. 同じ頃ボストンでは細胞代謝ジャーナル(the journal Cell Metabolism、2008.6.3)にハーバード大学公衆衛生スクールの研究者たち(researchers from the Harvard School of Public Health)(HSPH)による注目すべき論文が掲載されました。


    「Adipocyte-Derived Th2 Cytokines and Myeloid PPARd Regulate Macrophage Polarization and Insulin Sensitivity」


    内容は脂肪細胞(adipocyte)より産生したサイトカイン(Th2 Cytokines)が抑制する脂肪細胞炎症とインスリン感受性を促進する物質(PPARd)の伝達経路(molecular signaling pathway)発見です。
    論文はハーバード大学公衆衛生スクールの遺伝子学、複合疾病(Genetics and Complex Diseases )担当の助教授チー・ハオ・リー(Chih-Hao Lee)、キーワ・カン(Kihwa Kang)らにより発表されました。研究は米国厚生省、米国立環境健康科学研究所、日本の自衛隊中央病院、米国心臓協会、米国糖尿病協会がサポートしています。

  11. 脂肪細胞の肥大化が万病の元(悪玉サイトカインTNFαなどの産生)
  12. 脂肪蓄積細胞組織(巨大細胞マクロファージ)は、肥大化により遊離脂肪酸、レジスチン(resistin)など、インスリン抵抗性を増大させる悪玉物質や、食欲抑制に関与するレプチンなどの生理活性物質(アディポサイトカイン)を分泌します。
    一般にサイトカイン(cytokine)は白血球などの免疫細胞から産生されますが、脂肪細胞組織にも免疫細胞が存在し、悪玉サイトカイン(TNFαなど)を産生します。悪玉サイトカインはインシュリン抵抗性を増し、糖尿病,高脂血症,高血圧,動脈硬化症の原因となります。
    TNF α(Tumor necrosis factor)=腫瘍壊死因子。

  13. 脂肪細胞にスイッチ信号を送る二つの伝達経路(シグナル伝達経路)
  14. 通常の脂肪細胞は悪玉サイトカインの生成を防止する自然なメカニズムも持っています。
    脂肪細胞が分泌する生理活性物質に活性信号を送る物質伝達経路(シグナル伝達経路)には善玉経路(M2 pathway)、悪玉経路(M1 pathway)の二つが平行して存在しますが、その詳細なメカニズムは不明でした。
    二つの伝達経路は健康状態の良い場合は脂肪細胞内でバランスを保っていますが、脂肪細胞への過剰なストレス(糖、脂肪など脂肪分形成食品の食べすぎなどの負担)で細胞が肥大すると、善玉の経路がインシュリン抵抗性、糖尿病などのメタボリック症候をおこす悪玉にひっくり返る性質「代替活性(alternative activation)」があります。
    リー助教授らの研究主眼は、二つの伝達経路をスイッチ制御している分子の確認でした。
    善玉経路を活性化し、悪玉経路を制御できる医薬品などを開発できれば肥満の有害性を防ぐことができるからです。これまではその分子が脂肪細胞内部に存在するのか、外部から誘引されるものかも不明でした。

  15. 脂肪細胞が産生する善玉サイトカイン(Th2インターロイキン)
  16. 善玉脂肪蓄積細胞組織(M2マクロファージ)(M2 macrophages)が善玉経路(M2 pathway)を経て活性化する物質(サイトカイン)の発見は医薬品開発の鍵でした。
    この善玉サイトカインをリー助教授(Chih-Hao Lee)らが発見し、Th2と名付けました。Th2には幾つかの種類がありますがインターロイキンIL 13とIL4がこれに相当します。

  17. ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)とは
  18. Th2サイトカイン(インターロイキン)を活性化させるのがペルオキシソーム増殖因子活性化受容体と呼ばれるPPAR(Peroxisome Proliferative-Activated Receptor)です。PPARには幾つかの型がありますがPPAR-dは細胞の核受容体でサイトカイン を受容します。PPAR-dが善玉経路に働くことは、PPAR-d欠陥マウスを使用した実験でマウスにインシュリン抵抗性が起き、肥満にもなることで確認されました。またTh2は脂肪細胞内部に存在する未明の物質によっても活性化されることが示唆されています。
    いずれにせよ、このPPARが今後の肥満治療と防止研究の中心となることは間違いないようです。PPARは糖を細胞に取り込む受容体である各種のグルコトランスポーター(GLUT)を活性化する核受容体としても研究が進んでいます。

  19. 肝臓脂肪の蓄積を防ぐPPAR
  20. 肝臓には最大のエネルギー蓄積サイトとして脂肪が蓄積されます。
    脂肪細胞組織でおきる善玉、悪玉サイトカイン産生のメカニズムは同様な現象が、この肝細胞(hepatocytes)においても生じる事が解明されています。

    ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)を欠如させたマウスによる実験では、脂肪肝(fatty liver)発生が確認されており、同様の脂肪肝は人間にも発生して肝硬変などの肝臓疾患を招きます。
    脂肪肝の防止にもPPAR-dが働きます。PPAR-dを活性化させて善玉サイトカインを増やせば、肝臓への脂肪蓄積過多を防ぐことも予測できます。