世界の健康ニュース解説
ヨーネ病と市販牛乳の危険性
- ヨーネ病感染牛の牛乳が関東圏に流通
- 給食で大半が消費された汚染疑いの牛乳
- 1)ヨーネ病は人獣(人畜)共通感染症(zoonotic)の疑いが濃厚であり、クローン病との関連が否定できない。
- 2)熱に強いヨーネ菌が現行の高温殺菌方法で死滅したかどうか自信が持てない。
- 低温殺菌乳製品の危険性
- 消費者不安が無視されたヨーネ病騒動
- ヨーネ病(Johne's disease)とクローン病(Crohn's disease)
- 乳製品を汚染する人獣共通感染菌の種類
- カンピロバクター・ジェジュニー(Campyrobacter jejuni )牛、ヒツジ、鶏、水鳥、犬、猫などに幅広く感染し、人感染する
- カンピロバクター・コリ(Campylobacter.coli )豚の腸炎. 人感染する
- カンピロバクター・ヒオインテスティナリア(Campylobacter.hyointestinalis)比較的最近確認された菌で情報が少ない
- カンピロバクター・フィタス(Campylobacter. fetus)食中毒ではなく敗血症や心内膜炎、関節炎、髄膜炎の原因となる菌
- カンピロバクター・ベネレアリス(Campylobacter venerealis)家畜の流産を起こす菌、人感染は不明
- Brucella canis 大阪の犬のテーマパーク倒産事件で注目された. 放置された犬の3分の2くらいの感染が疑われ、処分された。
- Brucella abortus 2007年10月上旬に福島県郡山の生産者が飼育した乳牛の感染が疑われ牛乳、ヨーグルトなど170万本以上が回収された。乳製品製造会社は酪王乳業、現在キリンビールグループとなっている小岩井乳業など。
- Brucella melitensisヤギ、ヒツジ
- Brucella suis ブタ, いのしし
- Brucella ovis ヒツジ
クリックして拡大する神奈川県平塚市でヨーネ病の疑いのある牛からの牛乳が関東圏の学校給食やスーパーに供給されていた事件(62万本を回収)が10月下旬に発生しました。
福島県郡山で10月上旬に発生したブルセラ病(170万本を回収)に続き、10月だけで大規模な牛乳汚染疑いが2件発生したことになります。
ヨーネ病(Johne's disease)は細菌が確認されてから100年以上経ちますが、相変わらず世界の酪農家を悩ます消化器系家畜疾病の一つで、畜産王国の米国では70万頭以上の牛が感染しているとも言われます。乳牛が痩せて、乳が出なくなり、死亡しますから、酪農家の経済的損失は非常に大きいものがあります。
日本の酪農は規模が微々たるために、ヨーネ病の知名度は無いに等しいのですが、近年は治療が難しいクローン病(慢性腸潰瘍)との関連が疑われて一般人にも関心が高くなっています。
日本のヨーネ病感染牛は1000頭以上が報告され(2004年)、珍しい疾病ではないだけに人獣共通感染症(zoonotic)であるならば重大な関心を持つ必要があります。
ヨーネ菌の汚染が疑われた生牛乳は平塚市の畜産農家が搾乳し、日本ミルクコミュニティの海老名工場で加工されたものです。日本ミルクコミュニティは2003年に雪印乳業、雪印食品が各地の農協、酪農協などと共に設立した会社です。
関東のスーパーで流通した牛乳のブランドは「農協牛乳」などですが、大半は「メグミルク学給」などのブランドで給食用に供給されたようです。
安全と宣言しながらも製造者、販売者が流通していた62万本以上の全てを回収しようとしたことからは二つの問題点が推察できます。
したがって行政当局、製造会社が「牛乳は高温殺菌処理により細菌は死滅している」と広報するかたわら、全量回収に踏み切った矛盾に疑問を持った消費者も多いはずです。
日本ミルクコミュニティは雪印乳業、雪印食品がエンテロトキシンAの黄色ブドウ球菌、セレウス菌、大腸菌などの大規模中毒事件や食肉詐欺事件をおこしたときに作られた会社ですから、事件に過敏であったのかもしれません。
日本では差別化が必要なローカルブランドや観光牧場に低温殺菌を売りにする牛乳が増えています。低温殺菌を選択している牛乳生産者の宣伝文句は、高温殺菌は味覚と栄養分を損なう(焦味)(たんぱく質の変質)、乳酸菌が死滅する、カルシュウムが吸収されにくくなる、などが主です。安全性の理論的根拠は欧州が主として低温のパスチャライズ(パスツール式殺菌)を選択しているからのようです。
欧米の狩猟民族や酪農先進国では、習慣と味覚などの点から乳製品の生食を好み、無殺菌の生牛乳、生チーズの摂食や、自家用を横流しする違法な販売が多々あるようです。
これは医学が未熟な頃の名残であり、行政当局ではそれに対し強い警告を発していますが、自家用生産量が多いために監督が難しい現状です。
欧米の保健管理当局は、かねてより生乳、生チーズなど乳製品の高温調理を求め、乳児には安全な母乳を推奨しています。
生食が永年の習慣によるものとはいえ、欧米では人獣共通感染症による難病、死亡者が多発しており、生産、販売関係者の無知が指摘されています。
牛乳にはいくつかの殺菌方法がありますが、日本の流通の大半を占める大手業者の製品は高温殺菌(UHT)(120-130度C で2-3秒)です。
ヨーネ菌など低温殺菌(高温でも?)では対応できない細菌が増えている現実がありますから、大手業者が安全確保のために高温殺菌を選択するのは自然な成り行きでしょう。
動物を原因とする重篤な疾病や食中毒を引き起こす人獣共通感染症の研究は急速な発展をしています。
人獣共通感染症は新種も含めて増加傾向にあり、様々な分野でこれまでの対策法を見直す動きがでています。
牛乳殺菌についても欧州では低温パスチャライゼーション(pasteurization)(パスツール式殺菌)の限界が議論されています。(注)米国のパスツライズ(パスチャライズ)(pasteurize)は日本の大手業者が採用している高温短時間殺菌を意味するようです。
神奈川県のヨーネ病騒動は灰色を黒とは決め付けることが出来ない行政の限界が露見した事件ですが、疑わしきは避けなければならない消費者としては詳しい広報が欲しい事件です。
「牛乳は高温殺菌処理をしており問題は無いと思われる、、、が回収します」という自信が欠如したあいまいな説明が全てでした。
消費者には広報が行き届いておらず、給食用が大半であったことから、どこまで回収できたのかも定かではありません。
筆者が購入したのはこの汚染が疑われる日付の「農協牛乳」ブランドですが、大丸ピーコック(藤沢)で販売されたものです。
ピーコックでは新聞などの報道で知った消費者のみと交換するだけで、張り紙、チラシなど、通知に特別な配慮はありませんでした。そのまま消費した顧客も多かったことが推察できますが、行政共々に配慮に欠ける処理といえます。
ヨーネ病に感染した牛、水牛、ヤギ、ヒツジなどは痩せて、搾乳不能となり、発病後1年くらいで死亡します。感染すると回腸、小腸などが腸炎を引き起こし、排泄物を経由して感染が拡大します。
発見した(1895年)ドイツのハインリッヒ・ヨーネ(Heinrich A. Johne)にちなんで命名されましたが、この頃の研究室では英国、米国の学者が共同研究して居り、英米でその後の研究が進化しました。
ヨーネ病(Johne's disease)はマイコバクテリウム属のヨーネ菌(Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis)(MAP)が病原菌です。鳥が宿主となるMycobacterium aviumの亜種といわれます。
ヨーネ菌はマイコバクテリウム・パラツベルクローシス(Mycobacterium paratuberculosis)またはparatuberculosis(パラツベルクローシス)(パラテュバキュロシス、英)と簡略化して呼ばれますが、ツベルクローシスは結核(Mycobacterium tuberculosis)のことです。
ヨーネ菌は畜産関係者から検出されることが多く、難病のクローン病との関連から、衛生管理行政関係者は危機感を強めています。
クローン病(Crohn's disease)は慢性の下痢を繰り返す消化器系統の疾病です。
英国(イギリス)など歴史のある畜産国では腸カタル(regional enteritis)と呼ばれた疫病、風土病です。
病理を確立した(1932年)米国のクローン博士(Burrill Bernard Crohn)にちなんで命名されていますが、多くの欧米学者が研究に貢献しています。
最近の日本では検査法の進歩もあり右肩アガリで患者が急増しています。
難病指定者として治療をしているクローン病患者だけでも2万5千人くらいになるようです。
クローン病(Crohn's disease)はヨーネ病との関連が疑われ、人獣共通感染症(zoonotic)とする学者が少なくありません。
畜産関係者には人獣共通感染症の危機意識が薄い人が珍しくありませんが、老人、幼児、児童など抵抗力が弱い人は家畜の排泄物に触れる可能性のある放牧場、ふれあい動物園などに近づかないことが懸命です。
米国では2003年から2004年にリステリア、サルモネラ、大腸菌類(E. coli.O157)に汚染したメキシコ、南米由来の生フレッシュチーズ(ケソフレスコ)(queso fresco)の中毒が広まり社会問題化しました。
米国の保健行政当局であるCDCは生乳やフェタ(feta)(ギリシャ由来のヒツジチーズ)、ブリー(brie)、ケソフレスコなどの生チーズが細菌に汚染されているのはあたりまえという認識です。
細菌は変異株が次々に出現します。耐性がどんどん変わりますから、対応もどんどん変えていかなければ死滅させることはできません。そのような疑いがあるからこそ、乳業関係者は高温殺菌でも全幅の信頼をすることが出来ないわけです。市販の牛乳は煮沸すること、海外では生チーズを避けることが賢明です。
1. カンピロバクター菌(Campylobacter)
(2002年12月16日暖かい国にでかけるときの心得参照)
食中毒原因トップクラスの菌。鶏の感染率が高い。少量の菌で発症することと、変異株が多くなっていることで畜産従事者が最も警戒している人獣共通感染症です。ギランバレー症候群(進行性麻痺)の原因として知られます。欧米ではペット、遊園地、動物園などで「動物に触れることを避けるべき」とする最大の理由となっています。
2. エルシニア菌(Yersinia)
(2002年12月16日暖かい国にでかけるときの心得参照)
3. 大腸菌類(Escherichia coli.O157)
(2002年12月16日暖かい国にでかけるときの心得参照)
4.リステリア菌(Listeria monocytogenes)
(2002年12月16日暖かい国にでかけるときの心得参照)
(2005年04月16日スモークサーモンが大量のリステリア菌に汚染参照)
5. サルモネラ菌(Salmonella)
(2002年12月16日暖かい国にでかけるときの心得参照)
6. ブルセラ菌(Brucella)
イギリスのデービット・ブルース(David Bruce)にちなんで命名された。
グラム陰性小桿菌。人に感染すると頭痛など風邪様の症状から始まり、進行した場合は中枢神経を侵し、脳炎、髄膜炎の原因となる。宿主によりいくつかの異なる菌種が報告されています(学名の後は宿主)。

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