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世界の健康ニュース解説

ジビエ料理の実体とE 型肝炎の危険性

    食肉用に改良された品種が多い豚類ですが、寄生虫、ウィルスが多いことで知られています。十分な加熱が必要です

  1. ジビエ料理とは
  2. (本記事は、2003年08月23日の改訂版です)
    ジビエ料理( gibier )とは狩猟により獲た、鹿、ウサギ、野鳥などの料理を指しますが、欧米での実体では飼育された素材を使用することが多く、より素材が少ない日本では輸入の冷凍飼育鳥獣がほとんどです。

    秋から冬にかけて、日本でも一部のフランス料理店ではジビエが売り物メニューになり、グルメが殺到するといわれます。 2003 年にこのサイトでジビエをとりあげた当時に較べ、ファンはより増えていますが、食素材や感染症の危険知識についてはあまり普及していません。欧米人は肉類に充分な加熱をします。

    狩猟民族に較べ日本は島国の農漁業国だけに肉類の危険知識が足りないようです。

  3. ジビエ料理で死亡者が
  4. 厚生労働省は 2003 年8 月1 日に、野生動物の摂食に対する危険を通達しました。 2003 年3 月に鳥取県で発生した2 名のE 型肝炎患者が、いずれも同じ野生イノシシ( wild boar) の肝臓を生食後に発症し、1 名(70 才)は劇症肝炎で死亡、他の方も重症肝炎になったからです(その後の経過は不明)。

    兵庫県ではシカ肉を生で食べた4名の方が6-7週間後にE型肝炎を発症し、加西市立加西病院に入院したといわれています。この事例は日本の学者によって英誌THE LANCETに掲載されました。厚生労働省によれば、いずれの事例も猪、鹿の狩猟収穫物を、生肉で摂食し、レバー刺しまで堪能したようです。相当なグルメではないかと想像していますが、寄生虫や感染症の危険は知らなかったようです。刺身の文化を持つ日本人は生肉を好みますが、馬刺しを含めて非常に危険な選択です。

    E型肝炎(HEV)は人畜共通感染症と疑われている唯一の型で、いまだにウィルスタイプは未分類です。ピコルナウイルス科のA型肝炎と同様の一過性肝炎で、キャリア(保菌者)になることはありませんが、第三期の妊婦が感染すると重篤な劇症肝炎になり、20%を超える致死率になるという研究報告があります。

  5. ジビエ料理の素材
  6. ジビエ料理では天然の狩猟物が最高の素材と成ります。狩猟のできる広大な規模の領地を持つ、ヨーロッパの王侯貴族が楽しんできた高級料理です。その醍醐味を、日本で味わおうとして被害に遭ったグルメの気持ちは理解できます。

    狩猟が一般的でない日本のレストランでは素材調達が難しいのが実情ですが、鮮度の良い、即死させた獲物は臭みも無く、非常に美味しいものです。


    日本では野生大型動物食材の輸入は検疫所が禁止しており、日本の料理店で食するジビエ料理の大半は、飼育素材の輸入冷凍物といっても良いでしょう。相当量のスパイスで処理しないと、すでにかなりの臭みが出ている素材が多いのはそのためです。これは山奥で冷凍物や、捕獲後時間の経過した魚の料理を食するようなものです。

    カモ科の野鳥は渡り鳥です。マガンを始め、オナガガモ、ホシハジロ、キンクロハジロなど様々な種類が飛来して共生しています。

    食用の魚には、天然、準天然、養殖があり、日本人グルメは天然魚の活き締めや、生簀料理を求めて、鮮度にこだわります。同様に、狩猟民族が主体の欧米においては、グルメ達に天然素材や鮮度のこだわりがあり、季節になれば、新鮮素材の探求情報が飛び交います。本場においても、狩猟による天然の新鮮素材は量的に限られ、レストランでは飼育物、準飼育物が大部分です。

    魚の活き締めのごとく、ジビエ料理で珍重されるのは、殺傷部分に注意して即死させ、内臓が飛び散ったり、半殺しになったりで、食肉部分が痛まないよう配慮した獲物です。

    新鮮で収穫後の保存状態の良いものは臭みが無く、臭いは素材独特の良い香りのみであるのは魚と同様ですが、このような良質素材の食経験がある日本人は非常に限られます。

    「マガン(青首)とホシハジロ」

  7. 冷凍輸入品が多いジビエ料理の素材
  8. 冷凍材料はニュージーランド産、カナダ産の飼育された鹿類( venison しか肉)を除くと、ほとんどがフランスから輸入されたEU 産素材です(2004 年現在) 。


    1. コル・ヴェール(col-vert )(青首鴨)

    2. リエーブル(lievre )(野うさぎ )

    3. マルカッサン(marcassin )(イノシシの赤子)

    4. ペルドリ(perdrix )(野生ウズラ)

    5. ペルドロー(perdreau )(perdrix の雛)成長段階でいくつかの呼び名がある。

    6. ベカス(becasse )(山シギ)

    7. ベカシーヌ(becassine )(田シギ)

    8. サルセル(sarcelle )(小さな鴨)

    9. ラゴペード・デコッス(lagopede d'ecosse )(雷鳥)

    10. フェザン(Faisan )(雉)

    11. パロン(Palombe )(野鳩)

    12. ヴェニソン(ベニソン)(venison) 野生鹿


    日本では野生のシカが、全国で年間約10万頭捕獲されて、食肉として流通しています。

    日本では鹿肉が最も入手しやすい野生動物ですが、生食は危険です。

  9. ジビエ料理の生食は危険
  10. 日本人グルメが魚の感覚で生食にこだわるのは理解できますが、現在の自然環境は昔とは異なります。ジビエ料理は、それなりの知識を持って楽しむことをお奨めいたします。

    レストランによっては国産鹿のたたきやタルタルステーキがメニューになっていることがあるようですが、ジビエ料理は衛生管理の行き届いた料理店で摂食し、生食は避けて、良く火が通った料理が無難です。また肉を柔らかくするために、多針の ジャカード( Jacquards)で叩いて 処理した素材は危険です。細菌やウィルスが熱の届かない内部に侵入するおそれがあります。

    ジビエのカモ類で最も一般的な青首鴨(コルベール)は学名Anser albifrons、英名White fronted gooseのことです。和名では「マガン」と呼ばれます。レストランに出回る飼育物には他の種類を交配した種類もいろいろあります。

    国際的に食品の安全に対する行政の関心は高いのですが、これは農畜産物や水産物の話です。

    狩猟捕獲物まで目は届きません。 

    行政管理の行き届かない猪、鹿、ウサギ、雉、野鴨、鳩類などの微生物汚染状態や罹病状態は未知の部分がたくさんあります。

    化学物質(肥料、害虫駆除剤、除草剤など)が公園、ゴルフ場、園芸、林業などで、広く使用されていますから、自然界で餌を調達する昆虫や鳥獣に影響が出ることは十分予想できます。エイズやサーズなど、予想もしなかった耐性菌や変異ウィルスが出現する時代です。ウェストナイルウィルスを渡り鳥が媒介することも最近の認識です。

    鹿のプリオン病や猪の寄生虫など、人畜共通感染症が、これほど話題になってきたことは過去にありません。

    北海道のスーパーで市販されていた豚レバーの一部からE 型肝炎ウイルスが検出され、人への感染の可能性が示唆されています。 東芝病院の三代俊治氏 による研究報告が英誌(Journal of General Virology )に掲載されたため、 厚生労働省は食肉として流通する豚に関しても、生食すればE 型肝炎感染の危険がありうることを通告しています。

    自治医大の岡本宏明教授らが行った全国調査(約 2500 頭分から採取された血清を分析)によれば、出荷時期に達したブタの90 %にE型肝炎の感染歴があるということです。教授らによれば、免疫物質(抗体)の検出率は成長するにつれて増加し、また出荷時には大半が消えてしまうことから、宿主の役割を果たしている可能性が高いといいます。研究によれば養豚業者などの豚への接触程度では感染の確率は低いようです。

  11. E 型肝炎の感染源と流行地域
  12. E 型肝炎ウイルスは豚やジビエ料理だけが感染源ではありません。

    E 型肝炎ウイルスやA 型肝炎ウイルスの感染経路は、ウイルスに汚染された食物、水の摂取による経口感染が多いため、E 型肝炎流行地域(ミャンマー、 インド、 パキスタン、 ボルネオ、 ネパール、 中国、ロシア、 コスタリカ、 メキシコ、 アルジェリア、 コートジボワール、 ソマリア、 およびスーダン)では飲料水、生野菜、果実、魚介類の摂取に格別の注意をする必要があります。

    E 型肝炎ウィルスは秋に集中して発生することが知られていますが、印度、ミャンマー、中国などでは、雨季の家屋浸水、河川氾濫によって数万人が感染した事例があります。道路冠水なども含めて、水が氾濫した後は E型肝炎感染の危険があります。

    また、豚、猪、鹿以外にも、鶏など鳥類に宿主の疑いがあるという研究があります。

    いずれにせよ野生動物にはE 型肝炎以外にも人畜共通感染症の病原性微生物、寄生虫類等を保有している可能性が高いため、生食は避けるべきです。E 型肝炎ウィルス は、摂氏63 度で30 分間か、同等以上の熱処理によって防ぐことができます。

  13. 5種類が報告されている肝炎ウィルスの血清
    1. A型肝炎 hepatitis A virus (HAV)   ピコルナウイルス科

      発展途上国に多く見られます。古くから黄疸、塹壕病などと呼ばれ、以前はほとんどの人に感染暦があるといわれました。感染後は免疫ができるため 2 度と感染しないようです。経口感染ですから、食品の生食に注意すれば防ぐことが出来ます。

    2. B 型肝炎 hepatitis B virus (HBV)   ヘパドナウイルス科

      B 型肝炎は血液・体液を介して感染する血清肝炎の代表的な型。HIV エイズと共に輸血による大量患者の発生で知られ、1990 年ごろまでは、輸血をした大部分の人がB 型肝炎に感染しました。C 型と並び、生涯にわたり慢性肝炎となり、肝硬変、肝癌になる恐ろしい肝炎です。

    3. C 型肝炎 hepatitis C virus (HCV)   フラビウイルス科

      C 型、D 型肝炎は最近まで非A 非B 型と呼ばれていた血清肝炎です。C 型肝炎の分類は比較的新しく1974 年にニューヨーク血液センターが報告したのが最初といわれます。

    4. D 型肝炎 hepatitis D virus (HDV)   サテライトウイルス科

      D 型肝炎はデルタ肝炎ウイルスといわれた血清肝炎で、B 型の感染状態にある宿主にのみ感染します。B 型に較べ、劇症肝炎の発生率が高いことが知られています。

    5. E型肝炎 hepatitis E virus (HEV)
      臨床的にE型肝炎は経口感染するA 型肝炎に酷似しています。潜伏期間は15 −60 日位。黄疸を伴って発症しますが、無黄疸、無症状(不顕性感染)の場合もあるようです。E 型肝炎は1989 年に遺伝子が初めてクローン化され、HEV 遺伝子検出が可能になりました。 典型的な症状は腹痛、食欲不振、濃色尿、発熱、肝腫大、黄疸、不快感、吐き気および嘔吐などである。ウイルスはゲノム塩基配列の類似性から暫定的に 4 型(I からIV までのタイプ)に分けられています。日本には III およびIV 型ウイルスが従来から土着しており、約 5 %のヒトが抗体を持っているとの報告があります。