世界の健康ニュース解説
心房細動とジギタリスのシアン配糖体
- 心房細動と脳卒中
- 心房細動と不整脈
- 血栓とプラーク
- 不整脈治療とシアン配糖体のジギトキシン
- ジギタリス(キツネノテブクロ)
- ジギトキシン(digitoxin)とジゴキシン(digoxin)
- エルダーとウワミズザクラにもシアン配糖体
- ケジギタリス(ジギタリスの近似種)とラナトシド
- キシン、ジゴキシンの医薬品
- 脳卒中予防と魚油のオメガ3
クリックして拡大する(この記事は、2004年03月08日の改訂です。)
長嶋茂雄元巨人軍監督が心原性の脳卒中を発作し、東京女子医大病院に入院したニュース(2004年3月4日)は中高年の健康管理の難しさを改めて認識させました。
長嶋アテネ・オリンピック野球監督のケースは、心臓の心房細動による血液滞留が原因で血栓が発生し、脳卒中を誘発したものです。
中高年になると、生活習慣によっては、心房細動の発生確率が急増しますが、監督の生活習慣は優等生だそうですから、交感神経に作用するストレスが原因の心房細動であったかもしれません。
心房細動は、心房の収縮、弛緩をつかさどる微弱な電気信号が、不規則になる不整脈現象です。
原因は特定できませんが、高齢者、不眠、ストレス、肥満、高血圧、アルコール飲料過多、喫煙、心疾患の既往症のある方、過度の運動などに発生が見られます。心房細動を原因とする事故は、スポーツ中の発生が多いことも知られています。
心房細動は、動脈が硬化してくる高齢者では、よく見かける症状ですが、多くの場合、不整脈や脚のむくみが予兆となります。
不整脈計測には、手の付け根の動脈より、自分自身で脈を取ることをお奨めします。正常な脈拍は安静時で60−80回/分が目安と言われます。
血液は、心臓の右心房から右心室、肺を通って、左心房から左心室へと流れ、全身に送り出されます。この流れが、なんらかの原因で、活性を低下させて、よどんだ場合に、血管や心臓(特に心臓の左心耳と呼ばれる部分)の中に血の塊、血栓ができやすくなります。
また加齢などで動脈硬化を起こしている血管内には、黄色プラークと呼ばれる脂肪分が堆積しており、プラークが破裂すると血栓となります。これらの血栓が血管内を移動し、脳、心臓、肺などの血管を詰まらせ、脳梗塞、心筋梗塞、肺梗塞などが発生します。
不整脈は原因が多様ですから、治療法も多様です。
医師の診断が難しい分野で、正反対の薬効を持つ医薬品の投与もあります。
不整脈の原因に対応して、心筋刺激剤のジギトキシン(ナトリウム・イオン・チャネルを阻害して、血管を収縮させる)、カルシウム・イオン・チャネル拮抗剤(血管平滑筋細胞内へのカルシウム・イオン取り込みを抑制し、血管を拡張させる)、β遮断薬(β受容体の遮断による心拍出量低下、交感神経刺激抑制作用)などを用いるのが一般的です。(イオンチャネルについては海産毒素の解説を参照してください)
不整脈の原因で多いのが心臓のポンプ機能活性が低くなるものです。その対症療法は強心剤の投与ですが、ジギトキシンが最も良く使用される医薬品です。
ジギトキシンは薬用植物のジギタリスから抽出されるシアン(青酸塩)の配糖体成分です。強心配糖体と呼ばれるジギトキシンは100年以上の永い間不整脈治療の主役となっていましたが、近年は合成された医薬品が主流です。
ジギタリスは鑑賞花として普及しており、紫色の筒状の花はキツネノテブクロ(狐の手袋)と呼ばれて愛されています。園芸種としては美しい花ですが、葉からは、強い毒性があるステロイド系配糖体(シアン配糖体)(cyanogenic glycosides)のジギトキシン(digitoxin)が得られ、生薬として使用されてきました。ハーブとしての歴史は古く、16世紀にはすでに薬として使用されていました。強心生薬として認識されたのは、20世紀になってからといわれます。

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英名Common Fox-glove
和名キツネノテブクロ(狐の手袋)
ジギトキシンはジゴキシンから水酸基OHが除かれたもので、水に解け難い成分です。
水溶性能が低い分、体内滞留時間が長くなりますから、薬効が強い反面、毒性も強いのが特徴です。
ジギトキシンの生合成はイソプレノイド経路(メバロン酸経路)(HP「テルペン類の分類とトリテルペン」参照)により行われます。
ジギトキシン、ジゴキシンには細胞内のナトリウム濃度を上昇させる作用があります.ナトリウムはカルシウムと拮抗して、細胞内のカルシウム濃度を上昇させます.血液中のカルシュウム濃度の増大により、心筋電気活動性や刺激伝導作用が活性化し、心筋に収縮作用が起きます。心筋が収縮することにより心臓のポンプ機能が活性化し、不整脈を正します。
不整脈の対症療法には、ジギトキシン、ジゴキシンの製剤が重宝されますが、ジギトキシン、ジゴキシンは薬効が著しい反面、ジギタリス中毒を誘発する使用法が難しい劇薬と言われています。
ジギタリス成分と同類のシアン配糖体(cyanogenic glycosides) はヨーロッパの薬箱と呼ばれている万能ハーブのエルダー(elder)の花、実 (Sambucus nigla, Caprifoliaceae)や、ワイルドチェリーの皮 (wild cherry berk) (Prunus serotina, Rosaceae) に含まれます。日本には日本エルダーと呼ばれるニワトコ(Sambucus sieboldiana )がありますがシアン配糖体成分はありません。
日本ではウワミズザクラ(Prunus grayana Max)、エゾノウワズミザクラ(Prunus padus L)が近似種です。強心配糖体(cardiac glycosides) のシアン(cyanide、青酸塩)を含有します。
伝統医療では毒性を避けるために、高齢者や軽度の患者には、水溶性能が高く、吸収力がジギトキシンより2−3割低い、近似種のケジギタリス(Digitalis lanata、ゴマノハグサ科)の成分を使用します。ケジギタリスの成分はラナトシドC(lanatoside C)と呼ばれます。
中外製薬、山之内製薬(京都薬品工業)などからジギトキシン錠、ジゴキシン錠 , ジゴシン1000倍散 , ジゴシンエリキシル , ジゴシン錠 などが発売されています。薬品の成分であるジギトキシン、ジゴキシン(digoxin. C41 H64O14 分子量780.95)、ジゴキシゲニン(digoxigenin、ジゴキシンから3分子の糖が外れたもの)などは、特に強心配糖体と呼ばれています。医薬品としてはジギタリスのジギトキシンの他、ケジギタリスのラナトシドC(lanatoside C)から、デスラノシド(deslanoside、ラナトシドCをアルカリで加水分解したもの)、ジゴキシン(digoxin、デスラノシドを酵素分解でグルコースを除去したもの)、メチルジゴキシン(methyldigoxin)等が合成されています。
脳卒中は脳出血と脳梗塞に大別されます。脳梗塞には、脳血栓(のうけっせん)と脳塞栓(のうそくせん)がありますが、長嶋監督の症状は脳血栓と言われています。脳血栓の原因も色々ありますが、長島監督のケースは、心房細動による血栓が脳梗塞を起こしたと言われています
脳卒中の原因となる血栓を予防するには、血液の粘度を下げる必要があります。
脳卒中予防に一般的な医薬品は小児用アスピリンですが、日常生活での食事やサプリメントには青魚の油、発酵大豆が最も有効な予防法です。
いわし、鯵、サバなど青魚の魚油にはオメガ3と呼ばれる脂肪酸(HP「脂肪酸の分類」「DHA/EPA再検証」参照)が含有されます。
魚油のオメガ3は血液の粘度を下げるばかりでなく、血管平滑筋に働き、脳卒中の原因となる異常収縮を避ける働きもあります。また納豆などの大豆類(HP「大豆の世界生産)参照)にも血液の粘度を下げる作用があるといわれています。
中高年となり、心臓血管疾患の既往症、高血圧、不整脈などがある方にとって、青魚油や納豆は貴重な食材です。
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