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世界の健康ニュース解説

海洋性生物の毒素:第三話「シガテラ中毒」

(この記事は2004年02月13日の改訂版です)

    ガルーパのから揚げ(タイ南部)

  1. レストランメニューの無神経な魚種選択
  2. (この記事は2004年02月13日の改訂版です)

    渋谷のある無国籍料理のカフェレストランで、シガテラ中毒が話題となるイシガキダイがメニューにあり、びっくりしました(2004年1月)。コストダウンのためか魚料理は2種類のみで、もう一つはカワハギの代替品として回転寿司などに見られるウスバハギ(学名:Aluterus monoceros)でした。イシガキダイは10年くらい前まではお寿司屋さんなどでもよく見られた魚ですが、最近はほとんどの料理屋では提供を中止しています。ことに千葉県の割烹がイシガキダイのPL法訴訟で敗訴し、1000万円を超える賠償判決が出てからは、料飲店のメニューからは消えていました。
    PL法以前であっても、プロとしては、常に食材や食中毒の知識を充分に持つことが要求されていましたが、PL法が施行されてからは、食材の知識がこれまで以上に必要です。訴訟における司法判断は「料飲業者はそれなりの知識を持って、安全な商品を提供する義務」があるというものでした。

  3. シガテラ中毒(ciguatera)とは
  4. シガテラ中毒(ciguatera)は、世界で最も多い魚の中毒といわれます。熱帯地方を中心に毎年数万人の中毒が発生、死亡例も珍しくありません。サンゴ礁を棲家にするバラフエダイ、オニカマス、ドクウツボなどがシガテラ中毒原因として多いようですが、イシガキダイ、はた類、カワハギ類など広範囲な魚からの中毒例が報告されています。
    渦鞭毛藻が生息するところには、シガテラ中毒の可能性がある、と理解することが賢明です。温暖化と共に日本など温帯地方にも数多い事故があり、最近(2003年)では千葉県の料理屋が、中毒した客より訴訟をおこされ、1260万円の損害賠償を判決されました。

    「あら」とも呼ばれるハタ類

  5. シガテラ中毒の症状
  6. シガトキシンの中毒は下痢や嘔吐の消化器障害、血圧降下などの循環器障害、知覚異常などの神経障害などが挙げられます。特徴的な症状ではドライアイス・センセーションがあります。ドライアイス・センセーションとは、非常に冷たいモノ(氷・ドライアイスなど)に触れたときに感じるピリピリするような痛みの感覚をいいます。回復が遅いのが特徴で症状が数ヶ月以上続きます。

    南洋のハタ類

  7. シガテラ中毒をおこす魚種
  8. 以前はイシガキダイ、ハタ類など特殊な品種の魚のみに保有されると考えられていましたが、餌により魚の体内に蓄積保有されるということが判明してからは、シガテラ毒をもつ魚は、オニカマス(英名:barracuda:本州の魚市場でも売られています)(学名:Sphyraena barracuda)、バラフエダイ(英通称:Large red mumea.Twinspot snapper)(学名:Lutjanus bohar) などのフエダイ類、ベラ類、ドクウツボ(giant moray)(学名:Gymnothorax javanicus)サメ類など多種にわたり蓄積保有されることが判明しています。

  9. 熱帯地方、亜熱帯地方のシガテラ中毒
  10. シガテラ中毒の発生は熱帯地方、亜熱帯地方では数万人にもなりますから、最も知られた海産毒です。ダイビングや釣りなどで南洋海域を航海する航海士や船員さんは南洋では一番美味であるハタ類を決して食しません。中毒すれば仕事に差し支えるからです。沖縄ではミーバイ(はた類)はご馳走ですし、アジア各国ではガルーパ(通称:garupa)(英通称:grouper)と呼ばれ、最も高級な魚です(毎年沖縄ではミーバイによるシガテラ中毒が多数例報告されています)。
    一般的には、魚類に含有されるシガトキシン毒素は少量なため、多量に食さなければ中毒の可能性は低いのですが、毒素を持つプランクトンの発生状況次第で、個体差がでて、死亡事故が度々報告されます。これらの魚は海域により無毒や弱毒の場合も多いために、食用として愛用している地域が多いことも事実です。

    南洋のハタ類

  11. 温暖化によるシガテラ中毒の北上
  12. 本州では10年以上も前から、シガテラ中毒の基となる、プランクトンの発生が見られ、紀伊半島の尾鷲など各地でシガテラ中毒が発生しています。
    餌となるプランクトンは通常熱帯地方、亜熱帯地方に多いために、日本の東部ではありえないと考える人が現在でもいるようですが、そんなことはありません。
    地球の温暖化は着実に進んでおり、伊豆東部海岸では南方系のアジ科のツムブリ(英通称:rainbow)(学名:Elagatis bipinnulata)やカジキマグロ(英名:Spriped Marlin)(学名:Makaira Mitsukurii)を毎年見ることができます。
    フグ毒は行政の監督下で知識が普及しているため、料飲業者による事故はほとんどありませんが、その他魚介類ではシガテラ以外にもいろいろな海産毒事故がおきています。
    厄介なのはシガテラ中毒を起こす魚には美味な魚介類が少なくないことです。料飲業者は温暖化による魚介類の生息海域が変化していることも認識し、海産毒の知識を充実させて、危なそうな素材は避けることが賢明です。

    五色海老(伊勢海老の一種)(写真左)とアオブダイ

  13. アオブダイ(Ypsicarus ovifrons)のパリトキシン(PTX)
  14. アオブダイによる食中毒はこれまで 長崎県、兵庫県、三重県尾鷲市三木浦港(死亡1名)、愛知県津島市(死亡1名)及び高知県などにおいて9件の発生が報告されています。合計39名の患者のうち3名が死亡していますが、原因物質の分離は出来ませんでした。分析技術が進歩した最近になり、これがパリトキシン(PTX)(HP海産毒素が世界を救う参照)による中毒ということが判明しています。(各県の保健所等の報告より)

  15. バイ貝(ばい貝、バイガイ)のスルガトキシン
  16. バイガイ(英米名 :whelk.英仏名: bulot)(学名:Babylonia japonica, Muricoidea, Buccinidae)

    Muricoideaは15種類。Buccinidae(エゾバイ科)は18種類ある。日本では、ツブなども含めて、全てバイと呼ばれることがあります。北海道南部から九州、朝鮮、中国沿岸にかけて広く分布します。地方によって事故発生貝の種類が異なることがありますが、小粒なジャポニカ品種からは、スルガトキシンやテトロトドキシンの検出が報告され、過去には死者が複数名発生しました。この品種は割烹や居酒屋で供されることが多いために注意が必要です。事故は太平洋側の駿河湾、日本海側の新潟県寺泊、若狭湾など広い海域で発生しています。
    バイに見られる神経や消化器を犯す貝毒は、渦鞭毛藻類のディノフィシス属(Protogonyaulax.Dinophysis fortii)が疑われていますが、ホタテ、アサリ、ムラサキイガイ(ムール)、赤貝など、食用のほとんどの貝でみられます。
    原因となるプランクトンは中腸腺、下腸管腺のある内蔵に蓄積するといわれます。この部分を除き、大量に摂食しないよう注意すれば、かなり防ぐことが出来ます。
    米国、イギリス、フランスでは、ウェルク、ブロット(ブロー)とよばれ食用としています。特にフランスでは一般的ですが、ヨーロッパでは中毒が多いことで知られており、赤潮時などは貝毒の注意をしています。イギリスなどでポピュラーなドッグウェルク(dog whelk)と呼ばれるものはNucella Muricoideaで、科(family)が異なります。

  17. イシガキダイ(石垣鯛)(英名:spotted parrotfish) (学名:Oplegnathus punctatus)イシダイ科
  18. 本州中部以南沿岸の岩礁域に生息する。 
    イシダイ(石鯛)(学名:Oplegnathus fasciatus)よりは、3割くらい安価で取引される。

  19. PL法とは
  20. 平成7(1995)年に施行。民法の損害賠償請求裁判において「製造物(料理を含む)の欠陥の立証、およびその欠陥に起因した被害の立証」が免責され「製品(料理を含む)の欠陥」さえ証明できれば、身体・生命・財産などに被害が及んだ場合、その損害の賠償をメーカー(提供者)に求めることができるようになりました。