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世界の健康ニュース解説

海洋性生物の毒素:第一話--ふぐ毒が貢献したイオンチャネルの解明

  1. 海洋性生物(Marine bioproducts)が持つ神経毒(neurotoxins)の研究
  2. (この記事は2004年02月13日の改訂版です)
    フグは致死性のある毒を持つために、別称で鉄砲、北枕、ガンバ(葬式のお棺ガンより)、ナゴヤ(尾張、終わり)などと死を意味する名前で呼ばれます。食通には厄介なフグ毒ですが、その生理活性解明から始まった神経毒(neurotoxins)の研究が人類に大きな恵みを与えていることは意外と知られていません。世界唯一といわれるフグを食する習慣により、日本がこの分野で先端的な役割を果たしているのは感慨深いものがあります。
    海洋性生物(Marine bioproducts)からは、フグ毒のテトロドトキシン(テトラドトキシン)(tetrodotoxin)を数百倍も凌ぐ非常に強い毒性と大分子構造を有するポリエーテル系(polyether)の天然有機化合物群が発見されています。赤潮毒ブレベトキシン(BTX)、シガテラ食中毒の主要原因毒シガトキシン(CTX)およびマイトトキシン(MTX)に代表されるポリエーテル系の海産毒は、従来の常識を超える巨大な化学構造、桁外れに強力な生物活性(毒性)と作用の特異性を有することから生命科学の分野で幅広い分野で注意を集めています。
    これら毒素の不思議で多用な生理活性から、神経伝達物質のメカニズム解明に重要な役割を果たすイオンチャネルの存在が確認されました。
    これによって脳梗塞、テンカン、不眠症、認知症、アルツハイマー、パーキンソンなどの難病治療、高血圧の予防、モルヒネを上回る鎮痛薬などの新薬開発が生まれる可能性が高くなり、大きな期待がもたれています。

  3. イオンチャネル((ion-channel)の発見
  4. イオンチャネル (ion-channel)はナトリウムやカルシウムなどが透過する細胞膜の小さな孔です。
    フグ中毒のメカニズム研究が進んだことにより、フグ毒が神経伝達物質の出入り口を閉鎖して中毒が起きるチャネル(ナトリウムチャネル)の存在と、そのたんぱく質組成が確認されました。この発見がその後の生命科学の発展に大きく貢献します
    イオンチャネルは透過するイオンの選択性によりNa +チャネル(ナトリウムチャネル)、Ca2+チャネル(カルシュウム・チャネル)等に分類されますが、この他にもカリウムイオンチャネル(potasium channel)、塩素イオンチャネル( chloride channel)というチャネルがあります。

  5. ナトリウムチャネルとは
  6. ナトリウムチャネル(sodium channel)は神経や筋肉の細胞膜に存在し、主として電位差により、細胞内外のナトリウムイオンがこの孔を透過することで、神経や筋肉に興奮性の刺激を伝えます。神経毒(neurotoxins)は、このチャネルを塞ぐことにより、細胞組織を麻痺させて中毒症状をおこします。

  7. カルシウムチャネルとは
  8. カルシウムチャネル(calcium channel)には、L、N、P/Q型などの3種類が発見されており、それぞれ活性が異なります。このうち、痛覚の神経伝達物質はN型といわれ、海産毒素コノトキシンにNチャネルを選択閉鎖する作用を持たせて新薬開発に繋げたのが鎮痛新薬のジコノチド(Ziconotide)です。       

  9. 海洋性生物より発見される抗癌治療物質(therapeutic agents)(2004年現在)

    • クリプトテシア・クリプタ(Cryptotethia crypta)(1984にサンゴ虫のMediterranean gorgonian Eunicella cavolini より単離、 Streptomyces griseusの大量養殖により合成した成分)    クリプトテシア・クリプタの分子構造によって合成されたアラビノシル・シトシン(arabinosyl cytosine )(Ara-C)はファルマシア社(Pharmacia & Upjohn Company) からシトザール(Cytosar-UR)という名前ですでに抗がん剤として販売されています。この延長で抗菌作用のあるアラビノシル・ヌクレオチド(arabinosyl nucleosides)のAra-A(Vidarabine)が現在開発途上であり、米国の国立がん研究所で期待されている物質です。
    • カリブ海などに産する尾索類(ホヤ類など)の生物であるチューニケイト(tunicate)(学名Tridedemnum solidum)から単離されたダイデムニン(ディデムニン)(Didemnin B)という物質が、ガンの治療に期待されています。
    • ニュージーランド産の海綿から単離されたマイカラミド(mycalamide)が化学合成に成功しています。抗ウイルス性物質、抗腫瘍性物質として期待されます。
    • ディノフラゲレート(Dinoflagellate)(赤潮の原因となる真核原生生物、渦鞭毛藻の総称)から得た細胞毒、オカダ酸(okadaic acid)の脱リン酸化酵素の阻害研究によるがん細胞の解明。
    • 相模湾などに産するクロイソ海綿から、ハリコンドリン(B Halichondrin B)の全合成に成功しています。悪性細胞増殖を特異的に阻害する抗腫瘍性の特質が期待されています。(名古屋大学上村大輔教授らが単離、佐々木 誠教授が全合成)

  10. イモ貝(いも貝)より発見された猛毒のコノトキシン
  11. 猛毒のコノトキシン(conotoxin)を持つイモ貝類は、さまざまな色の美しい貝殻文様が特徴で、装飾貝として人気が高い。貝の収集が盛んであるため、絶滅を危惧する人も多い。形状が日本では芋に類似することから「イモ貝」、米国などではとうもろこしに類似するカタツムリ様の貝ということから「コーン・スネイル」と呼ばれる。日本の南西諸島をはじめ、世界の暖かい海に約500種が生息。独特の毒針様器官ヴェノム(venom)を持つ。
    猛毒で著名な種類が、俗名アンボイナ(anbonia)またはジェオグラフィー・コーン(Geography Cone)(学名Conus geographus Linnaeus, 1758)と呼ばれる種類。インドネシアのアンボン湾(Gulf of Anbon)に特産することで知られている。
    中東に産する、美しい布地文様のアラビアタガヤサンミナシ(学名Conus textile neovicarius da MOTTA)も猛毒で知られている。名前の由来の鉄刀木(タガヤサン)は比重の重い木材として著名。

    (いも貝)(cone snail) イモガイ超科 イモガイ科、(CONOIDEA, Conidae)

  12. 岸義人教授
  13. 2001年、文化功労章授章者。ハーバード大学教授。 1937年生、名古屋大学理学部卒
    天然有機化合物より特定の物質を抽出して人工合成することの第一人者。特にフグ毒、シガテラ毒、海綿など海洋生産物分野の研究が多い。名大当時にテトロドトキシン(テトラドトキシン)の全合成に成功、また抗菌、抗癌抗生物質マイトマイシンC(mitomycin C15H18N4O5.協和醗酵)を放線菌(Streptomyces caespitosus)の体内物質から合成したときに重要な役割をはたしました。
    その後ハーバード大学において、ハワイなどに産するサンゴの仲間イワスナギンチャクのもつ猛毒物質パリトキシンの、不可能といわれた全合成を1994年に成功させました。ふぐ毒研究で著名な名古屋大学平田義正教授(1915-2000)の門下生。2001年に不斉合成(物質が持つ両極の活性の一極を選択合成する)の触媒開発でノーベル化学賞を受賞した野依良治博士(1938年、京都大学)と同門。