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世界の健康ニュース解説

トランス脂肪酸の害:第五話--トランス脂肪フリーの食用油-市場寡占化を狙う欧米企業

  1. ニューヨーク市のトランス脂肪酸規制
  2. (一部の記事は過去に掲載されたものが編集されています)

    全米でトランス脂肪酸の含有量を表示する義務が生じて(2006.1.1)から約1年になりますが、12月5日に、ニューヨーク市が独自に新たな規制を発表したことが大きな反響を呼んでいます。食の安全を守る連邦のFDAが、いまだに表示義務の施行にとどまり、その後の対応が遅れていることに一石を投じたものとみられます。シカゴが追従する動きを見せており、隣国のカナダは1年以内に規制(5%以内)に踏み切ることを公表しています。
    ニューヨーク市の規制はレストラン・メニューに、トランス酸含有量の上限(一食当たり0.5グラム)を設けたものです。
    規制は2007年の7月まで猶予されますが、この制限量はこれまでの基準を大幅に下回るもので、実際には禁止(ban)といえる量です。
    今回の規制対象はレストランで使用する調理用、調味用の食用油、マーガリン、ショートニングなどですが、2008年7月までには、対象がパンなど全ての食品に拡がります。
    低所得層を救済する意図からか、食品メーカーによるパーケージ商品を提供する外食堂は規制の対象外となっています。
    現在のブルームバーグ市長(Michael Bloomberg)は公開ダイエットをするなど、保健問題に関心が高く、3年前にはレストランや公共の場所から喫煙を追放したことで知られています。
    突然の規制の背景には、市場寡占を狙う遺伝子組み換え農産物開発企業や、乳製品製造企業のロビー活動が見え隠れするだけに、今後も連邦レベルの論議が続いていくものと思われます。

  3. 苦悩する連邦の食品医薬品局(FDA)
  4. 10年来この問題に取り組んできた米国の行政機関(FDA)は、7年前にはトランス脂肪が悪玉コレステロールを増やし、心臓、血管病や肥満の根源になることを確認しています。禁止の方向性は3年前には決定していましたが、米国では代替商品の開発が難航しており、FDAも新たな規制に踏み切れない事情があります。現段階で開発されている新商品は未熟であるという認識、トランス脂肪酸の規制は特定の企業を利するだけということもあるのでしょう。
    加工食品の約40%は食用油を使用しており、禁止に近い規制を加えれば全米の食品業界が混乱します。特に寡占によりコスト高になることは、低所得層の食生活を直撃する問題となりますから厄介です。
    今回の規制に対し、当然のことながらニューヨーク市のレストラン業者は猛反発しています。国の行政機関であるFDAが許可しているものを、地方行政が禁止することには納得できないとするものです。
    FDAの遅々とした対応の実情は、連邦レベルで即刻規制することは、あまりに混乱が大きいということでしょう。

  5. 日本はトランス脂肪の追放が可能か?
  6. 現在の日本に和食だけで生活している人は稀ですから、トランス脂肪の有害性は日本人にも深刻な影響があります。欧米に較べて政府、行政、食品業界の対応が遅れているだけに、規制が全く出来ていないのが実情です。
    日本人はトランス脂肪の摂食が欧米人と較べて少ないとの仮説もありますが、規制が全くないだけに、中高の所得層に限れば、欧米人よりトランス脂肪酸の摂食量が多いことも考えられます。
    トランス脂肪は、すでに日本人の健康に大きな損害を与えていますが、規制は低所得層を直撃する問題だけに解決は簡単ではありません。
    日本でトランス脂肪酸を調理用油から追放する現在の選択肢は、伝統的な生絞りで採油した油以外に決めてはありません。なぜならば日本では穀物、野菜の遺伝子組み換え食品(GM食品)が受け入れられないからです。米国が主流のトランス脂肪レス調味用油は遺伝子組み換えによる菜種(キャノーラ)や大豆です。天然の生絞り植物油は低所得層には難しい選択肢だからです。
    日本人も実際にはファーストフードやレストランなどの外食や、醤油、味噌などの加工品で、組み換え食品を相当量摂食をしており、キャノーラ油も遺伝子組み換えの菜種油ですが、ヨーロッパや日本の農業では、遺伝子組み換え農産物の栽培例がほとんどなく、国民性にマッチしていません。
    スーパー(グローサリー)で販売される食品の70%に遺伝子組み換え農産物(GM)が混入している米国と、それほどではない日本では遺伝子組み換えの代替品受け入れに大きな温度差があるわけです。
    パン、ケーキ、クッキー、スナック、マーガリンなどの加工食品用油脂に関しては、日本でもパームオイル(ヤシ油)が主流となりそうです。コストが高くなることはありませんから、全ての所得層を満足させますが、飽和脂肪酸過剰摂取の問題が残り、新たな火種となることは間違いないでしょう。

  7. 市場の寡占化を窺う多国籍企業
  8. 米国食品業界のトランス脂肪追放策はオレイン酸含有を増やした遺伝子組み換え食用油(GM)とパーム油など飽和脂肪酸の使用です。オレイン酸の含有量を大量に増やした品種の開発は、高温加熱で発生するトランス脂肪が、米胚芽油やオリーブオイルでは少ないのがヒントになっています。
    調理用油の開発は多国籍企業による遺伝子組み換えの菜種油、ヒマワリ油、大豆油が主流となり、この段階で規制が強化されれば多国籍企業の寡占化が進むでしょう。
    加工食品用のショートニング、マーガリンなどは、飽和脂肪酸のパーム油(ヤシ油)が主流です。

  9. 遺伝子組み換えトランス脂肪フリーの食用油
    1. ナトレオン・キャノーラ(Natreon canola oil)
      ダウ・アグロサイエンス社(Dow AgroSciences)が2004年6月に発表。低飽和脂肪酸を謳う。オレイン酸含有率は70%。カナダのキャンブラ・フーズ(Canbra Foods)などが販売している。
    2. インビゴー・キャノーラ(InVigor canola oil)
      バイエル・クロップ・サイエンス社(Bayer CropScience)が開発を続けているトランス脂肪フリーの新種キャノーラのライン。オレイン酸含有率は不明。食品大手のカーギル社(Cargill)が提携している。ダウとの特許係争で一躍有名になった。
    3. ヴィスティブ(ヴィスティブ)(Vistive soybeans oil)
      モンサント社が加工食品業のアーチャー・ダニエル・ミッドランド(Archer Daniels Midland )(ADM)と開発した低リノレン酸遺伝子組み換え大豆油。モンサントは遺伝子組み換え農産品開発の最大手。
      トランス脂肪含有率は通常の大豆油の8%から3%になっているといわれる。この商品はケロッグが提携している。
    4. サンズ・トランス(SansTrans RS39 T20)
      ローデルス・クロックラーン社(Loders Croklaan)が開発したパーム油とキャノーラ油のミックス商品。マーガリンやショートニング用。一般の飽和脂肪酸より脂肪分が30%は少ない利点があるという。一部にキャノーラ油を使用するために少量のトランス脂肪が含まれるといわれます。
      ローデルス・クロックラーン社はユニリーバ(ユニレバー)(オランダ)の子会社ですが、マレーシアの多国籍企業アイ・オー・アイ(IOI group)に売却されて、パームオイル市場を川上から川下まで支配するようになりました。マレーシアのパームオイル生産量は1980年代の半ばの400万トン前後から1990年代に急増し、2004年には1,400万トンを超えています。インドネシアのパームオイル生産量を加えると2,600万トンを超え、世界市場3,000万トンの大半を占めていますが、両国のパーム栽培地の急増は森林破壊、希少動物絶滅危機(オランウータンなど)など、新たな摩擦を引き起こしています。
      トランス脂肪の規制が始まってからはパームオイルの価格が急騰し、2004 年の平均34 0ドル/トンから、最近は500ドル/トンを超えて、大豆油と同等かそれ以上の相場です。最近のマレーシアの輸出量は前年比8%を超えているようです。好況を受けてクロックラーン社は2005年にパームオイル生産能力を倍増しています。
    5. ニュートリアム(NUTRIUM oil)
      パイオニア・ハイブレッド社(Pioneer Hi-Bred International, Inc、デュポンの子会社)がブンゲ社と提携して開発した低リノレイン酸の新種遺伝子組み換え大豆油。オランダ系メジャー食用油生産業者のブンゲ社(Bunge)は大豆油の生産量世界一といわれます。ニュートリアムの主要ユーザーはケロッグ社です。

  10. パームオイル(palm oil)が加工食品用油の決め手なのか?
  11. パームオイルのパルミチン酸(Palmitic Acid)とその固形断片のステアリン酸はエステル交換固形物を自然に得ることができます。多くの問題点を残しながらも世界の代替品市場はパーム・オイルが増えてきました。しかしながら、誰もが安易に飽和脂肪酸に置き換えることに疑問を持っています。
    カナダのマーガリンにはパームオイル以外に、カノーラオイルとパーム心髄オイル(palm kernel oil)を混合したエステル交換固形物を混入した製品があります。
    また、ユニリバー(ユニレバー)社が1991年に開発したマーガリンの人気商品「I Can't Believe It's Not Butter」(これがマーガリンなんて、信じられない !!)は不飽和脂肪酸も使用しているためにトランス脂肪が含まれますが(サンズ・トランスを使用していると思われる)、規制内(0.5gm)のトランス脂肪酸含有量のためにトランス脂肪フリーを謳っています。

  12. オレオマーガリン(oleo-margarin)
  13. 獣脂から採った油のタロー(tallow)を圧縮して作るのがオレオ油(oleo oil)です。
    常温では固形で、融点は摂氏40度以上です。オレイン酸を40%近く含有します。
    マーガリン、化粧石鹸、潤滑油、化粧品など、多様な用途があります。
    多国籍総合食品会社のクラフト(Kraft)が、1930年代よりオレオマーガリン(oleo-margarin)を生産しています。マーガリンのブランドは現在見当たりませんが、OREOと命名したスナック菓子が売られています。クラフトの現在のオレオ(OREO)がオレオ油を使用しているか、植物性油かは不明です。オレオ油は飽和脂肪酸ですから、トランス脂肪の発生はありませんが、他の油をミックスした製品にはトランス酸が含まれる可能性があります。オレオ油の成分は中性脂肪主成分のトリグリセライド(triglyceride)やグリースと同様です。BSE騒ぎでは狂牛病の感染媒体とも言われましたので、その意味ではオレオ油の今後の動向を注視する必要があります。

  14. エステル交換技術(インターエステリフィケーション)
  15. EUでは遺伝子組み換え食品を拒絶していますから、植物性脂肪のエステル交換
    (interesterification)製品が主流です。
    エステル交換は、油が酵素や酸により固形化し、構造変化することに関連する技術です。具体的に言えば、油の脂肪酸成分が他の有機物群と相互結合してエステル化します。
    マーガリン、ショートニングはトランス脂肪を生ずる水素添加化合(hydrogenation)によって食用油を安定させますが、酵素によるエステル交換によっても油に希望する機能と安定性を与えることが出来ます。
    脂肪や油の自然的、化学的なエステル交換の促進過程は、酵素やその他技術の他動的なエステル交換より、はるかに安上がりな応用技術ですが、退色する難点があり、余分な工程が必要とも言われています。
    工業的なエステル交換は酵素を使います。酵素は、脂質の消化酵素である天然のリパーゼを使用するケースが多く、ノボザイムズ(Novozymes)(デンマーク)の酵素(Lipozyme TL IM)が技術的にリードしているようです。

  16. キャノーラ・オイルをエステル化したマーガリン、ベネコール(BENECOL)
  17. ベネコールはマックネイル・ニュートリショナル(McNeil Nutritionals, LLC)(ジョンソン・アンド・ジョンソンの栄養化学部門)から、栄養食品として販売されています。
    ベネコールの主原料は樹皮成分やキャノーラ油をエステル化したもので、マーガリン様スプレッド(脂肪分が少ない)となっています。トランス酸はフリー(少量?)と公称しています。
    ベネコールには悪玉コレステロール値を下げるというスタノール・エステル(Plant Stanol Esters)が添加されて販売されています。
    スタノールは哺乳類のコレステロールに相当する植物性ステロールの飽和型成分。
    植物性ステロール同様にLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を低下させる成分といわれ、少量ですが多くの野菜などに含まれています。
    スタノールは1995年にフィンランドのイングヴァー・ウェステル(Ingvar Wester)が開発しました。
    ユニリバーから類似商品のフローラ・マーガリン(Flora pro-activ)が販売されています。

  18. エステル交換(interesterification)食品の表示義務
  19. FDAは昨年、ラベル表示の分類について重要な通達を出しました。エステル交換脂肪で、20%を超えるステアリン酸を含むものは、ラベルに「高ステアリン酸」または「ステアリン酸高含有」表示とともに、「エステル交換大豆油」などと記載しなければならないということです。ステアリン酸、オレイン酸などには動物実験で発がん性の報告があり、安全量限度がまだ不明ですから、消費者が選択できるよう、表示を必要とするということでしょう。