世界の健康ニュース解説
全米で同時発生したオーイチゴーナナ(0-157)菌の集団感染
- 短期間で全米に波及した集団感染
- オーイチゴーナナ(0-157)(腸管出血性大腸菌)
- 主な感染源はナチュラル・セレクション・フーズ社のパッケージ・サラダ
- 米国(アメリカ)のホウレンソウ産業
- カリフォルニアのホウレンソウ産業
- モントレー郡のホウレンソウ産業
- 事件の背景と問題点
クリックして拡大する米国(アメリカ)ではオーイチゴーナナ変異菌(Escherichia coli O157:H7)に汚染された生鮮ほうれん草による集団感染者が2006年9月25日現在、25州で175人となりました。
感染者は8月19日から9月5日にかけて続出しましたが、米国疾病管理予防センター(the Centers for Disease Control and Prevention)が9月14日に感染原因(カリフォルニアの生鮮ほうれん草)を発表以来、全米を揺るがす食品中毒事件となりました。
感染者、死者こそ少ないものの、これまでもレタスを含めて事件は頻発しており、今回は短期間で全米に拡大したことで、全米の野菜や果物の相当部分をまかなうカリフォルニア州の生鮮野菜食品産業に構造的な欠陥があると指摘されたからです。
秋の収穫期を迎える各州のホウレンソウ産地では深刻な経済的打撃を受けています。
9月25日現在、93人が入院中ですが、28人が腎臓障害(HUS)に陥り、29人の感染者が出ているウィスコンシン州では1人が死亡しました。
感染者の内訳は126人が女性、16人が5歳未満で、女性が多いのが特徴的です。
0-157は腸管出血性大腸菌に分類される大腸菌(Escherichia coli)の一種です。普通腸管に存在する大腸菌は菌体の抗原(O抗原)と鞭毛抗原(H抗原)とで分類されます。O抗原には180種類以上、H抗原には60種類以上の血清型があります。
O-157の数字の157は、181まで発見されている血清型発見順番で、強力毒素型として知られています。
O-157の中毒事例が一番多いのですが、O-26、O-111も多数例がありますので、集団中毒発生時は検査対象となります。
O-157、O-26、O-111は中毒すると下痢と共に腸管壁から出血するために、腸管出血性大腸菌と呼ばれ、産生されるベロ毒素(ヴェロ毒素)(Shiga-like toxin、verotoxins)が腎臓などを冒します。大腸菌のベロ毒素(verotoxins)はコレラ菌、赤痢菌が産生する毒素と同様です。
これまでのケースではベロ毒素を産生する菌の70%くらいがH7とよばれる比較的新しい変異株(1982年に分離)で、今回の集団感染もH7株です。
ウィルスではありませんから、免疫力が充分な健康な成人にはそれほどの脅威ではありませんが、乳児、幼児、老人が感染した場合は重症になるケース知られています。
またベロ毒素により腎臓障害(溶血性尿毒症症候群)(Hemolytic Uremic Syndrome) (HUS)をおこした場合や、高血圧症患者がベロ毒素に感染した場合は、死亡率が高くなるという研究があります。今回は腎臓障害の発生割合が高いことで、H7変異株にもなんらかの変化が起こった可能性が危惧されてます。
オーイチゴーナナ(0-157)は摂氏80度、15秒間の加熱で死滅するといわれます。
煮沸の場合は100度以上が推奨温度です。
食品医薬品局 (FDA)によれば、これまでのところ感染源はカリフォルニア(SanJuan Bautista.サリナス、サンタ・クルズに近い古い町)の大手加工業者ナチュラル・セレクション・フーズ(Natural Selection Foods LLC)の生鮮ほうれん草が中心であり、他のケースは調査中とのことです。
今回汚染が疑われ、リコールされて販売停止対象となっているのは生鮮品であり、缶詰、幼児用ペースト、冷凍品は対象ではありません。
ナチュラル・セレクション・フーズ社は26,000エーカーの有機栽培農地を持つ全米一の有機サラダ加工販売業者です。
1990年代にサラダ用の特殊パッケージを開発し、葉野菜、チーズ、果実、ナッツ、ドレッシング等がセットになっているパッケージ・サラダ(bagged salads)を売り出しました。スーパーで売りやすく、消費者に便利なパッケージは急速に普及し、全米の食品スーパー経由で流通する有機栽培サラダの75%を占めるようになりました。
サラダ・バッグはアースバウンド・ファーム(Earthbound Farm)というブランドで約100種類のサラダを自己販売すると同時に、大手生鮮食品業者のドールを始め、30前後のバイヤース・ブランドを通じて販売しています。
Balducci's や FreshProなどいくつものブランドで、ヴァージニア、メリーランド、ワシントン、ニューヨークなど東部海岸にも流通していますが、これが短時間に25州にもまたがり発生した原因といえます。
米国でのホウレンソウ(spinach)はポパイの精力の素となった宣伝漫画が有名ですが、ビタミンA,ビタミンC、鉄分、葉酸の供給源としてヘルシー野菜の代表格となっています。
米国の生産量は世界で2番目ですが、そのシェアーは4%にすぎません。
ホウレンソウは中国が世界の76%を占める大生産国だからです。
中国はニンニクの世界生産シェアーが66%あり、1990年代後半から始まった輸出攻勢が世界のニンニク生産国に「津波」といわれて恐れられていますが、ホウレンソウのシェアーはそれをはるかに超える独占的とも言える生産量です。
日本などへはクロルピリホス(Chlorpyrifos)など農薬類が問題となり、ブレーキがかかっていますが、それが無ければ世界の生産シェアーはもっと高くなっているはずです。
米国のホウレンソウ(スピナッチ)総生産量はカリフォルニア州が48%を占めます。
近隣のアリゾナ、テキサス州を合わせれば、その合計は90%にもなり、生鮮に限ればカリフォルニア州は全米の69%(1996年)を占めたことがありました。
カリフォルニア州ではモントレー(Monterey)、サンベニト(San Benito)、リバーサイド(Riverside)、サンタバーバラ(Santa Barbara)、ヴェンチュラ(Ventura)の各郡が主産地です。
モントレー郡のサリナス渓谷(Salinas Valley)はカリフォルニアのホウレンソウ生産の74%を占める大産地で、レタスも全米の80%を占める生産量があり、郡都のサリナス(Salinas)は世界のサラダ・ボール(Salad Bowl of the World)との呼称があります。
カリフォルニア州のスピナッチ(ホウレンソウ)生産金額の記録は1996年の258百万ドル(約300億円)ですが、モントレー郡が約3分の2の188.2百万ドルを占めました。
サンフランシスコから比較的近いモントレー郡はモントレー半島のカーメル(Carmel by the sea)や、デルモンテ社のぺブルビーチが観光地、ゴルフ・リゾートとして知られています。
カーメルはクリント・イーストウッドが市長となり日本でも有名になりました。
今回の事件が大騒動になった背景には、ほうれん草やレタスによるO-157の集団感染が、1995年からの約10年間で20回以上も起きていることがあげられます。
すでにカリフォルニア州の農産物生産は灌漑システムの発展と共に、安い労働力を求めて内陸のサンホワキン川沿いの地域(San Joaquin Valley)に広がっていますが、今回事件の起きたサリナス渓谷周辺(Salinas Valley)は19世紀からの歴史がある古い農産地で、現在は集散地や加工地ともなっています。
食の安全を管理する食品医薬品局(FDA)は汚染地として、この地域のモントレー(Monterey)、サンベニト(San Benito)、サンタクララ(Santa Clara)の3郡をあげていますが、識者や研究者によれば、1,200エーカーの生産がある他のホウレンソウ生産者の保護(1エーカーで400万円近い損害となります)とパニックを防止するための行政的配慮であり、真実は簡単な事件ではないという認識があります。
カリフォルニア州は全米一の農産物生産地であり、年間300億ドル(約3兆5千億円)平均の出荷額がありますから、中毒事件の拡大は州経済にも打撃を与えます。
すでにホウレンソウ関連の企業にはレイオフが始まったことが伝えられています。
現地では灌漑システムを含めた上下水道のシステムの老朽化が指摘されており、他の野菜類、果実類への感染拡大も懸念されています。
ナチュラル・セレクション・フーズのパッケージ・サラダや他社のサラダにはホウレンソウばかりでなく、フルーツ類、ナッツ類、ケール(kale)、からし菜(mustard greens )、アングラ(arugula)、コラード(collard greens)(主として南部で生産されている)などの葉野菜が使用されていますから、ホウレンソウ以外にも汚染の可能性があるという認識です。
また野菜、果物、ナッツ生産のカリフォルニア州への偏在は生産者、加工業者、販売業者を巨大化させます。
ナショナル・ブランドが確立するとともに、生鮮食品が微生物に汚染された場合は急速に全米へ浸透する可能性が高くなったことにも危機意識を持っています。

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