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世界の健康ニュース解説

今年(2006年)の夏の米国北西海岸は海産物の生食が禁止されています

  1. シアトルで食中毒の発生
  2. 米国北西海岸のシアトルは風光明媚でシーフードが美味しい、ウォーターフロントの観光都市です。今年の夏休みも多くの日本人が訪問することでしょう。
    夏も涼しいシアトルの近郊では牡蠣の養殖が盛んで、新鮮な生牡蠣を楽しむ観光客が絶えませんが、今年の夏は名物の牡蠣やハマグリの生食が出来なくなっています。
    ニューヨークの異常高温を始め、最近の世界的な異常気象はシアトルも例外ではありません。海温が高くなったシアトル沿岸の海産物で7月に50名近い食中毒患者が発生しました。
    近隣の町や州も例外ではなく、複数の食中毒発生が報告されています。
    死亡したケースはまだありませんが、連邦や州の行政当局はハマグリなどの二枚貝、海老、蟹を含めた海産物の調理を厳重に監督し、完全調理をした海産物のみをメニューにするよう警告を出しています。

  3. 生食海産物が全面禁止となった、シアトルのレストラン
  4. シアトル近郊の観光地で有名なフードキャナル(Hood Canal)(小海老のフードキャナル・シュリンプで著名)や市街に近い、南ピュージェットサウンド(South Puget Sound)のトッテン(Totten)入江、エルド(Eld)入江では牡蠣などの養殖が盛んですが、今年の夏は全面的に生牡蠣の出荷が禁止されています。このため観光客でにぎわうシアトルのシーフードレストランでは生の海産物を食べることが出来なくなっています。

  5. シアトル近郊で生産される牡蠣
    • パシフィック・オイスター
      クラッソストレア・ギガ(Crassostrea gigas)(通称ジャパニーズ・オイスター、パシフィック・オイスター)
      シアトルの生牡蠣の主流は日本産のまがき(マガキ)です。
      養殖場のある入江の名前などが付けられてBarron Point、Hama Hama、Imperial Eagle、Penn Cove、Sisters Pointなど20種類以上のバラエティーになっています。近隣の州やカナダなどか輸入されたクラッソストレア・ギガ(マガキ)もいろいろあります。
    • オリンピア(Olympia)
      オストゥレオーラ・コンチャフィーラ(Ostreola conchaphila) (別名 オステレア・ルリーダ(Ostrea lurida)
      通称パシフィック・コースト・オリンピア・オイスター(Pacific coast's Olympia oyster)
      米国西海岸原産といわれる小型の牡蠣
    • フラット・オイスター(Flat oyster)
      オストレア・エデュリス(Ostrea edulis)、ベロン(ブロン)(Belon)と通称されます。フランス原産のフラットな円い牡蠣
    • クマモト
      クラッソストレア・クマモト(Crassostrea kumamoto).
      現地の人たちは一つの種類として扱っていますが、クラッソストレア・ギガ(Crassostrea gigas)(マガキ)のことです。

  6. 食中毒の原因微生物は腸炎ビブリオ菌
  7. 今回シアトルで発生した食中毒の原因はビブリオ・パラヘモリティカスでした。日本ではビブリオ・パラヘモリティカスを腸炎ビブリオと呼んでいます。
    ビブリオ科の微生物にはコレラ菌などいくつかの種類が発見されていますが、性質の似たビブリオ・パラヘモリティカス ( Vibrio parahaemolyticus )とビブリオ・バルニフィカス(Vibrio vulnificus)の二種類が著名です。
    ビブリオ・パラヘモリティカスは殺人バクテリアの一つといわれるビブリオ・バルニフィカスに較べれば致死率は高くありませんが、免疫力が衰えている場合は死亡事故が発生しています。
    ビブリオ・バルニフィカスは海水中の菌が傷口などより浸入し、敗血症などを発症することが多いようですが、海産物の生食でも発症します。

  8. 腸炎ビブリオ菌(ビブリオ・パラヘモリティカス)とは
  9. ビブリオ・パラヘモリティカスは好塩菌と呼ばれた塩分を好む菌で、摂氏20度以上の浅い海や海泥中で増殖します。水道水などでは増殖しません。気温の高い東南アジアなどでは通年で発生しますが、温帯地方では7-9月に多発します。
    20度以上の暖かい海水(浅いところの温度が高くなります)になると増殖が早くなり、海産物が汚染されます。

    腸炎ビブリオ感染症は90年代半ばごろより世界的に発生が急増し、2000年に入り漸減しましたが、また増加傾向にあります。
    ビブリオ・パラヘモリティカスには沢山の血清型が発見されていますが、増殖力が強い血清タイプに変異していることが増加の原因との指摘があります。
    ビブリオ・パラヘモリティカスは熱や寒さに弱い菌ですから、生食を避けて適正な調理をすれば感染を防ぐことができます。

  10. 腸炎ビブリオ感染症(ビブリオ・パラヘモリティカス)でも死亡事故が発生する
  11. 腸炎ビブリオはサルモネラ菌と並び食中毒発生率の高い細菌です。日本での発生は例年、数百人程度ですが、多い年は1万人を超えたことがあります。
    一般的には死亡率は低いのですが、まれには死亡する場合があります。古い話ですが1950年10月、大阪で発生したシラス干し事件が死亡事故として著名です。
    感染患者が250名以上、死者が20名という中毒事件でした。

  12. 腸炎ビブリオ感染症、ビブリオ・バルニフィカス感染症を注意すべき人
  13. ビブリオ科の細菌には、慢性の肝臓疾患を持つ人、高齢、幼児、病気治療中、病後など抵抗力の弱い人は特に気をつけることが必要です。 
    特にビブリオ・バルニフィカス感染症は、海産物の生食(または不完全な調理)によるばかりでなく、傷口経由で菌が侵入して敗血症になる場合があります。このときの死亡率は50%近くになりますから要注意です。
    20度以上の海温で海泥の多いところで発生しますから、傷口がある人は温かい海水に浸かることを避けなければなりません。

  14. 腸炎ビブリオ感染症の発症と対策
  15. 数時間から12時間前後で発生し、非常に苦しい腹痛、下痢、嘔吐、発熱などが続きます。短時間で発症したケースは重症になる可能性があります。発熱に解熱剤などの対症療法は良いのですが、無理に下痢を止めるのはお奨めできないとのことです。点滴などで水分補給をしながら2-3日で菌が排出されるのを待ちます。
    ビブリオ・バルニフィカス感染症が疑われる場合は菌の増殖を阻止する抗生物質が使用されます。このような微生物には性病やマラリアに処方されるテトラサイクリン系のドキシサイクリン(Doxycycline)(ビブラマイシン)、セファロスポリン系抗生物質が使用されることが多いようですが、適切な選択は医師による診察と処方が必要です。