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世界の健康ニュース解説

セーラムの魔女と片頭痛

  1. 偏頭痛(Migraine)とセロトニン(Seroton)
  2. 片頭痛のメカニズムは全てが解明されているわけではありません。
    感覚、睡眠、記憶、思考などに関与する神経伝達物質の御三家としてセロトニン(5-HT)、アセチルコリン(ACh)、ノルアドレナリン(NA)が挙げられますが、片頭痛に深く関与しているのはセロトニンです。セロトニンは必須アミノ酸のトリプトファン(Tryptophan)を原料に生成されます。温かい血を持つ動物に普遍的な神経伝達物質で、太い血管を収縮させ、細い血管を拡張させる作用を持ちます。
    この特性から、血液中のセロトニンが増えれば、太い血管の拡張が原因の片頭痛は改善されます。ところが合成の多少には女性ホルモンの分泌が影響しているようで、若い女性のセロトニンの脳内合成能力は男性の半分ともいわれます。片頭痛に悩まされる若い女性が多いのはこのためではないかという説が有力です。ストレスによってもセロトニン分泌が抑制されるようですから、悩める女性は片頭痛の原因をさらに増やすことになります。
    *セロトニンはトリプトファンで生成されますが、過去には合成トリプトファンの健康食品摂取による非常に危険な事件もありました。健康食品などでの摂取は十分な注意が必要です。

  3. 麦角アルカロイドとセロトニン
  4. 偏頭痛治療には、麦角アルカロイドの薬理を応用した効果の高い医薬品が開発されています。
    麦角アルカロイドを応用した薬の効能(薬理)は、痛みを伝える神経伝達物質(セロトニン)(5-Hydroxytryptamine)の働きを活性化するものです。
    麦角のアルカロイドであるエルゴタミンをベースに開発されたものはカフェルゴット(ノバルティス ファーマ社)(スイス)などがあります。ただしエルゴタミン(ergotamine)などの麦角アルカロイドは子宮を収縮させるために妊娠中の女性が使用できないことや、腹痛、吐き気、嘔吐などの副作用が強いこともあり、片頭痛の治療には問題もあります。エルゴタミンはトリプタン受容体を含む神経細胞のいろいろな受容体に作動するために多様な結果が得られますが、作用が強いためにマイナス面もあるからです。第二世代の開発では、偏頭痛のみに関係あるセロトニン受容体といわれる5-HT1B、5-HT1Dを選択的に作動することが求められていました。開発された選択薬は総称してトリプタン(triptan)系薬剤と呼ばれています。

  5. トリプタン(triptan)系薬剤
  6. 1992年12月に米国FDAで承認されたグラクソ・スミスクライン社のイミグラン(スマトリプタン)(sumatripton)がトリプタン(triptan)系薬剤のパイオニアです。アストラゼネカのゾーミッグ(ゾルミトリプタン)(1997)、メルクのマクサルト(リザトリプタン)(1998)なども5-HT(1B/1D)受容体に選択的に作用するトリプタン系薬剤です。これらは第二世代の偏頭痛治療薬とも言われますが、片頭痛のメカニズムは複雑ですから、症状によっては効果が薄い場合もあるようです。現在ではアスピリンなどの鎮痛剤、エルゴタミン系薬剤、トリプタン(triptan)系薬剤(5-HT(1B/1D)受容体選択薬)などが使い分けられています。(カッコ内は化学物質の英名)

    *頭痛にはいろいろな原因があり、鎮痛剤を安易に使用することは大変危険です。
    偏頭痛治療薬の使用は検査によって脳内出血など、他の異常が認められない場合に限られます。

  7. 麦角(ばっかく)(ergot)(Claviceps purpurea)
  8. 麦角(エルゴ)はライ麦などイネ科植物の穂に寄生するにはカビ(子嚢菌)です。
    ヨーロッパでは16世紀頃から麦角の作用が知られており、医療の現場で使用されることもありました。
    麦角にはインドール骨格を持つアルカロイド成分(エルゴアルカロイド)が含まれます。
    エルゴアルカロイドの化学構造が解明されたのは1930年代です。ロックフェラー研究所(ニューヨーク)のヤコブ(W. A. Jacobs)とクレイグ(L.C. Craig)よって分離されたエルゴアルカロイドはリゼルグ酸(lysergic acid)と名付けられました。
    エルゴアルカロイドから分離されたエルゴメトリン、エルゴタミン、エルゴクリスチン(ergocristine)、エルゴコルニン(ergocornine)などは、総称してエルゴトキシン(エルゴの毒素)とも呼ばれます。エルゴメトリン(ergometrine)からは分娩促進剤、より強力な作用を持つエルゴタミン(ergotamine)からは片頭痛治療薬が開発されています。

  9. 麦角中毒(エルゴティスム)(ergotism)
  10. 魔女狩りの原因ともなった麦角中毒は雨が多く穀物が不作の年に多発したといわれ、ドイツ、ポーランド、ロシアなどライ麦を主食とする人々の間では、数千人を超える多数の死者が出た大発生(パンデミック)の記録がいくつもあるそうです。この中毒は麦角に冒された黒パンが原因となることが判ってからは急減し、1927‐8年のロシアでの発生以来、大規模な発生は報告されていません。

  11. セーラム(サレム)の魔女
  12. 「サレムの魔女」は魔女狩りをテーマとした映画の日本版名です。元は「クルーシブル(Crucible)」(るつぼ)という戯曲の題名で、1957年にフランスで映画化されました。
    戯曲や映画の脚本を書いたアーサー・ミラーは日本人ジャズピアニストのホキ・徳田さんと結婚して話題となった劇作家です。
    創作である戯曲の脚本と実際の魔女狩りとは異なる部分が多々ありますが、おりしもマッカーシー議員による赤狩り(共産主義者狩り)が批判を浴びている最中で、世界中で話題となった名作です。1997年には焼きなおし版も上映されています。セーラムは全米一のタバコの産地。アメリカタバコの大部分が此処で生産されています。

  13. セロトニン受容体
  14. セロトニンの化学物質名がヒドロキシトリプタミン(5-Hydroxytryptamine)です。そのためにセロトニンを細胞に受け入れる受容体はHTで表されます。
    神経細胞(ニューロン)がセロトニンを受けいれる受容体には5-HT1、5-HT2、5-HT1B、5-HT1D、5-HT2Bなどいくつかのサブタイプがあり、全く作用が異なることが知られています。このうち偏頭痛の関連受容体は5-HT1、5-HT1B、5-HT1Dではないかといわれています。

  15. 麦角のアルカロイドから作られたLSD(Lyserg Saure Diethylamid)
  16. エルエスディー(LSD)はバーゼル(スイス)のアルバート・ホフマン(Albert Hoffman)によって合成された覚醒作用を持つ薬品です。ホフマンは麦角アルカロイドの研究から1938年にLSDを開発しました。合成物質は麦角アルカロイドの分子構造の一部を変化させたものです。
    LとDはリセルグ酸ジエチルアミド(lysergic acid Diethylamide)の頭文字、Sは彼の所属した会社名(Sandoz)といわれます。現在でも研究室での便宜的な命名であるLSD-25がそのまま使用されています。エルエスディーはきのこの毒素などで知られるムスカリンやシロシビンに類似する強い幻覚作用を持ちます。(きのこの毒素参照)


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