世界の健康ニュース解説
鳥インフルエンザ:ワクチン(H5N1)開発の現状
ワクチンの開発と製造法
- H5N1対応ワクチンの完成時期は?
- 鶏胚細胞培養法(purified chick embryo cell culture)(PCEC)
- 強毒ウィルスのH5N1が増殖に使用する受精卵を殺してしまうため、生産歩留まりが悪い。
- 製造に時間がかかる。(完成までのプロセスには最低6ヶ月かかる)
- 一人当たりワクチン所要量が大きい。(強毒なために、一人分には1個の有胚卵が必要。有胚卵は食用卵とは異なり、生産が限られます。例えばアメリカの需要を満たすには1億個の有胚卵が必要です)
これ等の問題解決には逆遺伝子技術(リバース・ジェネティクス)によるウィルスの機能解析と、より早く大量にワクチンを製造できる細胞培養法とが考えられています。 - 逆遺伝子技術(リバース・ジェネティクス)(reverse genetics)
- 細胞培養法(cell culture)
- M2プロテインの機能を殺す方法(開発中のワクチン製造新技術1)
- アデノウィルスを使用する方法(開発中のワクチン製造新技術2)
- メディミューン社(メッドイミューン)(MedImmune, Inc. Gaithersburg, Md.)
- カイロン(キロン)社(Chiron Corporation ,Emeryville, California)
- リアソータントウィルス(reassortant viruses)
クリックして拡大する現状では2006年初より半年以内に大流行(パンデミック)が起こった場合にはワクチンが間に合わないのではないか? と悲観的な観測が主流となりつつあるようです。
人に処方する鳥インフルエンザ・ワクチンの開発と製造には幾つかの問題点があります。
また、一回のワクチン所要量が大きいために、安全性の確認に時間がかかっています。
現在確立されている技術は50年来のワクチン製造法だけです。鶏胚細胞培養法と呼ばれ、有胚卵(embryonated hen's eggs)で病原ウィルスを培養生産する方法です。現在のインフルエンザ・ワクチンはこの方法で製造されています。
この方法はコストが安いのですが、鳥インフルエンザ・ワクチン製造には問題点が色々あります。
ゲノム解析した全遺伝子情報を基に、人為的に遺伝子変異させた動物(インフルエンザ・ウィルスの場合はマウス)を作り、機能、特性を調べる技術。
ゲノム情報が完全に得られなかった頃は、変異している動物を集めて、解析し、どの遺伝子が変異しているかを同定していました。これをフォワード・ジェネティクス(forward genetics)とよんでいます。問題はこの技術をメディミューン社(MedImmune, Inc. Gaithersburg, Md.)が独占していることです。
世界の大手ワクチンメーカーが試みている方法です。細胞培養法は第一段階としてウィルスを人の細胞に注入して増殖させます。その後、細胞膜を取り去り、取り出したウィルスを培養、純化してから不活性化させる方法です。すでに確立されている技術ですから現実性があります。
2004年に*国立アレルギー・感染症研究所(NIAID) は米国のインフルエンザ・ワクチンを製造している*サノフィ・パスツール社(Sanofi Pasteur. Pennsylvania)とカイロン社(Chiron Corp. California)両者と助成契約をしてH5N1対応のワクチンを開発しています。
サノフィ・パスツール社は、すでに400人の治験に入っているそうで、カイロン社も2つの異株に対応するワクチンの開発をしています。これ等の開発では細胞培養法で得られたウィルスを有胚卵で増産する方法を採用しているようです。
* NIAID (the National Institute of Allergy and Infectious Diseases)国立衛生研究所(NIH)の一部門
*フランスのサノフィ・アヴェンティス社(Sanofi-Aventis)のワクチン部門
M2プロテインはこれまで100年間に発見されたA型インフルエンザ・ウィルスに必ず見ることが出来るウィルス膜上のたんぱく質です。どのウィルス型にも変異が少なく安定した形として存在するために、活性化を抑える方法を変異ウィルスごとに変える必要がありません。これまでのインフルエンザ・ワクチンは変異しやすいたんぱく質のヘマグルチニン(hemagglutinin)(HA)、ノイラミニダーゼ(neuraminidase)(NA)を抑制のターゲットとしていますから、変異株ごとに造り変える必要があります。
現在はM2プロテインの働きを抑える方法に色々なアプローチが試みられていますが、この方法で免疫を持った人が体内で変異させるウィルスがどのような機能を持つかが、まだ不明です。
目標ウィルスを培養後にアデノウィルスをヴェクターとしてHA抗体(HA antibodies)を作成します。
危険の少ないアデノウィルス(adenovirus)は遺伝子組み換えなどの遺伝子を運ぶヴェクターとして培養や純化の技術が確立しています。容易に大量生産できることが利点です。この方法では実験室レベルでも一ヶ月に1万5千人分から3万人分が製造できるといわれます。
米国陸軍と、その研究所に永らく在籍したホックメイヤー博士によって1988年に設立されました。インフルエンザの生ワクチン、フルーミスト(FluMist)を生産しています。
この会社はインフルエンザ・ワクチン市場の独占を狙い、ヴェンチャー企業の開発する関連技術を精力的に買収しているそうです。
創業者のウェイン・ホックメイヤー氏(Wayne T. Hockmeyer) は1966年から 1986年まで、米国陸軍及びウォルター・リード陸軍研究所・免疫部門(the Department of Immunology at the Walter Reed Army Institute of Research.)に所属、
プラクシス・バイオロジクス社(Praxis Biologics)副社長を経てからメディミューン社を設立し、現在では多くのヴェンチャー企業の役員を兼任しています。
2000年にCEOを投資会社出身のモット氏(David M. Mott)に譲り、会長となっています。
この項は(20040223-1140)を参照。(20041019-1503)より転載。
カイロン社は従業員5,332人、米国のインフルエンザワクチンの半数を生産しています。ワクチンの製造会社としては世界で5位の規模、インフルエンザワクチンに関しては2位といわれています。
カイロン社は1981年に、カリフォルニア州、サンフランシスコ近郊のオークランドで創業しています。社名はギリシャ神話の医学の祖アスクレピオス(Asteropaios)の師であるケイロン(Cheiron)=(キロンChiron)に因んで名付けられました。
カイロン(キロン)社は各種ワクチン製造、エイズや肝炎等の血液分析受託、血液分析機器製造(商品名PROCLEIXなど)を主たる事業としており、ワクチンは30種類以上が臨床試験中、ないしは販売されています。PROCLEIXなど血液分析機器製造ではカリフォルニア州サンディエゴのゲンプローブ社(Gen-Probe Incorporated)と密接な提携をしています。
創業者はハーバード大学、ユタ大学、イリノイ大学で生化学(Biochemistry )を修めたルター博士(William Rutter, Ph.D)ら3人の化学者ですが、2003年の4月に、経営者がメロン大学やMITを卒業した、事務系経営者とも言えるハワード・ピアン(Howard H. Pien)氏に変わりました。ハワード・ピアン氏は、英国の同業者であるパウダージェクト社(PowderJect Pharmaceuticals)を買収してカイロン社を急成長させ、2002年に較べ、倍近い1,766百万ドル/2003年を売り上げています(経常利益774百万ドル)。内訳はワクチンの売り上げ678百万ドル、血液分析422百万ドルなどです。
ハワード・ピアン氏に変わってからは、主要技術系役員の退社もあり、バブル的急成長による歪が原因ではないかという事件が起こりました。2004年から2005年のシーズンに米国の予定供給量1億本の半分を占めるカイロン社のインフルエンザ・ワクチン、フルーヴィリン(Fluvirin)に品質問題が生じ、その供給がシーズンに全く期待できなくなり大混乱が生じました。フルーヴィリンは英国で生産されていますが、当局に出荷を止められてしまいました。ナスダックに上場している株式は2003年の11月、12月の55ドル近辺をピークとして45ドル前後で推移していましたが、事件後に急落し、2005年3月には30ドル近くまで低下しました。鳥インフルエンザ・ワクチン開発の期待もあり、2006年には45ドル前後まで回復しています。
この項は(20041019-1503)より転載部分があります。
哺乳類の体内に複数の型のウィルスが入り、合体して混血ウィルスになること。
鳥インフルエンザ・ウィルスは人間に感染しないとされていましたから、鳥感染インフルエンザ・ウィルスと人間感染のインフルエンザ・ウィルスの双方のウィルスに感染する豚がリアソータントの元凶といわれていました。最近は鳥から人間に直接感染が確認されて、この説も揺らいでいます。
2001年から2002年にかけて、 ヨーロッパを中心に世界的に流行したインフルエンザからは、ヒトのA(H1N1)型とA(H3N2)型のリアソータントと思われるA(H1N2)型ウィルスが分離検出されました。豚と人間のどちらが複合させたかの結論は出ていません。人間の体内で異なる型のウィルスがリアソータントしたケースも考えられています。
今回問題となっているのは鳥インフルエンザA(H5N1)がサブタイプの変異を起こさない株の変異(ドリフト)でありながら強毒を持った可能性があることです。

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