世界の健康ニュース解説
タミフルの品不足とシキミ酸
- タミフルは新型インフルエンザ対応の備蓄を優先
- 確保が難しい日本の必要備蓄量
- タミフル増産の問題点
- シキミ酸(Shikimic acid)
- シキミ(樒)(Illicium anisatum.L、Illicium religiosum Siebold & Zucc)シキミ科(Illiciaceae)
- トウシキミ(Illicium verum)、八角、スターアニス、大茴香(ダイウイキョウ)
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タミフルの世界的な備蓄競争で品不足が深刻です。欧米やアジアでは闇のタミフルや偽物が横行し、極端な高値ともなっていますが、他人事ではありません。
日本でも通常のインフルエンザ対応の市場流通量が減少しており、冬のシーズンを迎え、病院や医師の間で確保が難しくなってしまいました。
理由は鳥インフルエンザから変異が予想される新型インフルエンザのワクチンが準備できず、タミフルでしか対応できないからです。タミフルは副作用の比較的少ないカプセル服用の抗ウィルス剤として、新型インフルエンザに対応できます。NA阻害剤(タミフル)の大きな特徴はウィルスの変異に対応できることです。
高病原性鳥インフルエンザH5N1対応ワクチンの開発は進んでいますが、受精鶏卵を使用する生産方法では量産のメドがたちません。アメリカがリードしているワクチンの新製法(次回に解説)も普及には時間がかかります。
日本は鳥インフルエンザ蔓延が深刻な事態となっているといわれる中国遼寧省(Liaoning)と近接し、この方面からの渡り鳥のルートともなっています。日本の関係者は、新型の防疫に万全を期す必要性を認識していますから、ワクチンが準備できるインフルエンザ型よりも、新型対策を優先させています。
タミフルは1999年10月に米国FDAでインフルエンザ治療薬として承認、2000年11月に予防薬としても承認されました。日本では中外製薬(ロシュの子会社)が、2000年から輸入を開始して、保険適用(2001年2月)後は、大量に輸入販売している実績があります。
ヨーロッパで承認されたのは2002年6月ですから、日本の認可は早い方で、他国に較べればストックもあり、必要量の確保が易しいといわれます。
しかしながら、タミフルの生産は原材料の調達を含めれば1年はかかるといわれ、政府が備蓄を決めた2500万人分の確保に2年くらいかかります。これは中外製薬が2006年3月ごろより国産化(?)する予想生産量を含めた数字といわれます。
今冬(2005年)にパンデミック(疫病の大流行)に襲われた場合は大きく不足しますから、政府はタミフルの市場流通分を3分の1に減らし、政府や地方自治体が備蓄する分をこれまでの30倍にまで引き上げる方針です。中外製薬とは市場流通に先んじて2100万人分の購入契約を12月中にするようで、一般に流行するインフルエンザ治療を犠牲にして、新型に備えるという方針が窺われます。
ロシュ社は世界的な需要の急増に対応するために、生産拠点を拡大すると共にライセンス供与先を広く募集しています。80社以上の申し込みがあるそうですが、適格な製薬会社は10社ほどだそうです。ロシュ社によれば技術指導によって生産を予定している各社も、満足すべき製品を生産するには2年はかかるそうです。天然資源確保の問題と生産工程が難しいことが原因です。タミフルはウィルスに犯された細胞の増殖を制御する医薬品として新しいコンセプトを持ちますが、より大きな特徴は、経口で服用されたものが、標的にたどり着くための技術です。これは分子工学、細胞工学に先んじているギリアード社(Gilead Sciences)の得意とする分野です。リレンザとの大きな相違がこの点です。
また生産過程には化学的合成の難しいシキミ酸を使用しています。シキミ酸は数多くの天然の植物に含まれるポリフェノールですが、抽出量の確保が難しいことでも知られます。
特に製造元のロシュ社は、シキミ酸確保を中国の南西部に隣接している広西チワン族自治区(Guanxi)、貴州省(Guizhou)、雲南省(Yunnan)、四川省(sichuan) で生育するトウシキミ(スター・アニス、ダイウイキョウ)に限定しています。
ライセンシーの生産では天然資源の限界から、上記4省以外のトウシキミや、それ以外の植物のシキミ酸を使用することが検討されていますが、ポリフェノールの微妙な相違もあり、同等の製品が出来るかは疑問です。
1885年、ヨハン・エイクマン(Johann Frederik Eijkmann)によってシキミ(Illicium anisatum)の果実からシキミ酸が発見されました。 シキミは猛毒を持つ植物として知られています。
エイクマンは日本政府により長崎に派遣され、日本の薬学発展に大きな貢献をしたオランダ人です。エイクマンは長崎駐在の後、東京大学医学部に所属していたときに日本産有毒植物の研究をしていたといわれます。エイクマンに発見されたことにより、この物質は日本名が付けられ、シキミ酸の名が世界に広まりました。
シキミ酸は、芳香族アミノ酸の前駆物質であり、タンニンの主要成分である没食子酸の前駆体ともなります。
またシキミ酸は植物の2次代謝経路の一つである芳香族化合物合成経路(シキミ酸経路)の重要な中間体であることでも有名です。
1926年にノーベル医学生理学賞を受賞したクリスチャン・エイクマンは(Christian Eijkman)はヨハンの弟です。
オキナワシキミ.とともにジャパニーズ・スターアニスと呼ばれる有毒植物です。
宮城県以南、四国、九州、沖縄、台湾、中国の山中に生育します。大きいものは10−12メートルに達します。
シキミ科(Illiciaceae)は中国、台湾を含めて40種類くらいが発見されていますが、猛毒で知られるのは シキミ(Illicium anisatum 、Illicium religiosum)です。2つの学名がありますが、同じ品種です。
シキミは神事、仏事に使用される木として古くから日本の神社、お寺などに植栽されています。
墓を荒らす動物よけに墓周りに枝を刺したり、植えたりしたそうです。
シーボルトの学名Illicium religiosumは宗教(religion)に因んでいます。またリンネの学名Illicium anisatumは匂いがヨーロッパに生育するせり科のアニスに類似するからです。
シキミはセスキテルペンラクトン構造を持つアニサチン(anisatin)(分子量328)が有毒成分で,全草に含まれますが,特に実や果皮に毒性が強いことが知られます。アニサチンは神経伝達物質γ-アミノ酪酸(GABA)の作用と拮抗し、中枢神経を麻痺させます。
匂いの基となる芳香成分はサフロール、シネオール、オイゲノールです。樹皮にはクエルチトリン(クエルセチン配糖体)を含有します。
タミフルに使用されるシキミ酸はこのダイウイキョウの種を包む皮から抽出されます。
中国南部、ベトナム北部に分布します。
乾燥させた実は星形になりますので中国では「八角」と呼ばれ、中華料理に無くてはならないスパイスです。豚の角煮、魚の揚げ物などでおなじみです。このトウシキミには有毒成分は含まれていません。生薬として使用される大茴香(ダイウイキョウ)の主成分は、アネトール(Anethole)です。
シキミ、トウシキミは シキミ科Illiciaceae)であり、せり科のアニスPimpinella anisum(エジプト、地中海沿岸など)やウイキョウ(フェンネル)とは香りが類似しますが、全く別種です。(ポリフェノールに関してはすでに解説してありますが、改訂版を近日中に掲載します)

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