世界の健康ニュース解説
米国ワクチン最大手、カイロン社の製造トラブル
インフルエンザ・ワクチンが奪い合い
米国ではインフルエンザのシーズンに向かい、ワクチンが奪い合いの様相。
価格が暴騰し、通常価格の10倍もの請求をする診療所が社会問題ともなっています。
米国の予定供給量1億本の半分を占めるカイロン社(キロン社)(Chiron Corporation)のインフルエンザワクチン、フリュヴィリン(Fluvirin)の供給が、今シーズンは全く期待できなくなったからです。CDC(米国疾病管理予防センター)の予防接種委員会ACIP (Advisory Committee for Immunization Practices )は10月5日、今シーズンのワクチン接種は、老人や子供など抵抗力の弱い人たちを優先するよう呼びかけています。
1. カイロン社の失速とメディミューン社の復活
2. カイロン社のワクチン製造トラブルとは
3. 米国ワクチン製造最大手のカイロン社とは
4. カイロン社の創業者
5.(参考)日本のワクチン製造
1. カイロン社の失速とメディミューン社の復活
ワクチン製造は受精卵の確保など、製造に時間と手間がかかり、労多くして実の少ない事業のため、製造会社は多くありません。
CDCはカイロン社と並ぶ、供給大手のアヴェンティス・パスツール社(Aventis Pasteur, Inc)のフルーゾーン(Fluzone)を5,400万本、メディミューン社(MedImmune)の生ワクチン、フリュミスト(FluMist)を110万本確保して凌ぐようですが、アヴェンティス社はすでに60%以上を出荷済であり、品不足によるパニック状態が続いています。今回の騒動によって、昨シーズン売れなかったメディミューン社のフリュミストが再び話題となり、株価が上昇してきたのは皮肉です(2004年10月18日現在、株価$27.48)
メディミューン社(MedImmune)はインフルエンザワクチン製造に欠かせない逆遺伝子技術(リバース・ジェネティクス)(reverse genetics)の特許を独占しています。
リバース・ジェネティクス(逆遺伝子技術)(reverse genetics)
は遺伝学の用語。ゲノム解析した全遺伝子情報を基に、人為的に遺伝子変異させた動物(インフルエンザ・ウィルスの場合はマウス)を作り、機能、特性を調べる技術。
既報(1090鳥インフルエンザ・ワクチンの製造に障害?参照)のように、メディミューン社のインフルエンザワクチンは生のウィルスを使用していますので、接種対象者が限定されます。注射の必要が無い、噴霧式のフリュミスト(FluMist)を売り物にしていましたが、価格も高かったため、昨シーズンは予想に反した業績で、毎年右肩上がりで伸びてきた業績も失速していました(売り上げ1,054百万ドル/2003年、経常利益289百万ドル)。今年はメディミューンのワクチンにも頼らざるを得なくなり、脚光を浴びていますが、昨年のフルーミストの販売状況が悪かったため、供給量は非常に少なくなっています。
ゲノム情報が完全に得られなかった頃は、変異している動物を集めて、解析し、どの遺伝子が変異しているかを同定していました。これをフォワード・ジェネティクス(forward genetics)とよんでいます。
リバース・ジェネティクス(reverse genetics)はこの反語です。
2. カイロン社のワクチン製造トラブルとは
カイロン社は英国リパーブールの工場でインフルエンザワクチンのフルヴィリン(Fluvirin)の製造をしています。フリュヴィリン=(フリュビリン)(フリューヴィリン)
今回の騒動は、この工場が製薬工場の法的基準であるGMP(Good Manufacturing Practice)を満たしていないとして、英国の医療製品統制局MHRA(the Medicines and Healthcare Products Regulatory Agency )より製造が一時禁止されたことに端を発しています。外国で自国用のワクチンを製造することの問題点が露呈した事件ともいえます。
3. 米国ワクチン製造最大手のカイロン社とは
カイロン(キロン)社(Chiron Corporation ,Emeryville, California)従業員5,332人
ワクチンの製造会社としては世界で5位の規模、インフルエンザワクチンに関しては2位といわれています。(Chiron Corporation)
カイロン社は1981年に、カリフォルニア州、サンフランシスコ近郊のオークランドで創業しています。社名はギリシャ神話の医学の祖アスクレピオス(Asteropaios)の師であるケイロン(Cheiron)=(キロンChiron)に因んで名付けられました。
カイロン(キロン)社は各種ワクチン製造、エイズや肝炎等の血液分析受託、血液分析機器製造(商品名PROCLEIXなど)を主たる事業としており、ワクチンは30種類以上が臨床試験中、ないしは販売されています。PROCLEIXなど血液分析機器製造ではカリフォルニア州サンディエゴのゲンプローブ社(Gen-Probe Incorporated)と密接な提携をしています。
4. カイロン社の創業者
創業者はハーバード大学、ユタ大学、イリノイ大学で生化学(Biochemistry )を修めたルター博士(William Rutter, Ph.D)ら3人の化学者ですが、2003年の4月に、経営者がメロン大学やMITを卒業した、事務系経営者とも言えるハワード・ピアン(Howard H. Pien)氏に変わりました。ハワード・ピアン氏は、英国の同業者であるパウダージェクト社(PowderJect Pharmaceuticals)を買収してカイロン社を急成長させ、2002年に較べ、倍近い1,766百万ドル/2003年を売り上げています(経常利益774百万ドル)。内訳はワクチンの売り上げ678百万ドル、血液分析422百万ドルなどです。
ハワード・ピアン氏に変わってからは、主要技術系役員の退社もあり、バブル的急成長による歪が事件の原因の一つといえるかもしれません。
株式はナスダックに上場しています。2003年の11月、12月の55ドル近辺をピークとして45ドル前後で推移していた株価は、事件後に急落し、現在は30ドル近くまで低下しています。インサイダー取引の疑惑もあり、SECの調査が始まったとも言われています。社名はギリシャ神話の医学の祖アスクレピオス(Asteropaios)の師であるケイロン(Cheiron)=(キロンChiron)に因んで名付けられました。
5.(参考)日本のワクチン製造
米国は日本に較べインフルエンザワクチンの需要が高いのが特徴的です。日本は先進国としては、ワクチン接種率が大変低く、2004年はデンカ生研、北里研究所など4社で約2000万本が予定されています。2004年のワクチンは前年までとは異なるウィルス株が選択されています。国産のみで独自の供給プランを作っていますので、今回の事件の影響はありません。

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