
ニュージーランド南島南端のインバーカーギル(Invercargill)は人口約5万人のサウスランド地方(Southland)最大の街。
イギリス人の入植地として旧い(ふるい)歴史があり、南極調査船、捕鯨船の母港として知られている。
このインバーカーギルから27キロはなれたところに、Bluff(ブラフ)(ブルーフとの発音も)という人口2000人に満たない小さな漁港の町がある。南端の島のスチャートアイランド(スチュアートアイランド))(Stewart Island:南極に最も近い有人島)とはフォルボー海峡(Foveaux Strait)を挟んだ対岸に位置する。フォルボー海峡沿岸地域は冷涼な気候ゆえに、ニュージーランド特産のあわび類パウア(paua)やブラフ牡蠣(Bluff oyster)の産地として有名。
パウアの殻は磨くと光沢のある美しい金属紋様が表れ、カリフォルニア、メキシコ沿岸のクジャクアワビ(英 名:Green abalone. 学 名:Nordotis fulgensまたはHaliotis fulgens )と共に螺鈿(らでん)など工芸品に用いられる。



(写真上)パウア(paua:マオリ語)は日本産のクロアワビ、メガイのように2種類あるが和名は一つ。写真はブラックフットとよばれる肉質表面が黒い品種。刺身も美味しいが、黒色を敬遠する人もいる。産地では簡単に捕獲できるが、乱獲防止のために一人10個まで。大きさも120ミリ以下(ブラックフット)、80ミリ以下(イエローフット)は捕獲できない。価格はキロ5,000円以上(小売)と安くない(2010年)
英名:blackfoot .学名:Haliotis iris 肉質表面が真黒
英名:yellowfoot.学名:Haliotis australis 肉質表面が茶黄色
和名: ヘリトリアワビ
このブラフ町にパウア貝(Paua)に魅せられたフラテイ夫婦(Mr and Mrs Flutey)の通称「パウア・シェル・ハウス」があった。
パウア・シェル・ハウスは数十年かけてパウア貝殻でデコレーションされた不思議な家。貝類のコレクションとともに内外で評判が高くなり、夫妻はここを観光客に無料で公開(1963年)。ここまで足を運んだ観光客のほとんどが訪れた人気コレクションだったという。
とはいってもインバーカーギルはオークランドから飛行機で2時間以上、クライストチャーチからでも1時間半。最短と思われるクイーンズタウンからでも1時間の遠隔地。観た人の積数は多くない。




(写真上)カンタベリー博物館に再現されたパウア・シェル・ハウスのリビング.
最下段は磨かれたパウアをバックにしたフラテイ(Flutey)夫妻のプロフィール
このコレクション( Fred and Myrtle Flutey’s paua shell lounge)はオーナー夫妻が2000年、2001年と相次いでなくなったことにより、2007年にブラフよりクライストチャーチのカンタベリー博物館(Canterbury Museum)に移転。
どこの国でもこのような個人のコレクションはオーナーが亡くなるまで、交通不便なところで展示されていることが多いが、夫妻のケースはラウンジ(リビング)を飾って楽しんでいたコレクション。
夫妻の死後に不動産を売却し、パウア(paua)貝殻のデコレーションをカンタベリー博物館に貸し出したのは何故か孫(10年間の契約?)。
詳しいことは不明だが、夫妻の娘たちに亀裂が入った。原因は孫が博物館と不明朗な金銭授受をした疑い(売却済み)を持ったようで、反対する娘は移転に対しては、観光資源を失うブラフの町民とともに猛反対。
結局、コレクションは2008年7月4日に南島最大の都市クライストチャーチのカンタベリー博物館で移転披露された。
その後は多くの予想通り。半年で7万4千人と従前とは比べ物にならない数の来訪者があり、関係者は例外なく「多くの人に見てもらうことができる場所に移転してほんとうに良かった」という。

(写真上)デフォルメされたパウアのサイン(エントランス)(カンタベリー博物館)

(写真上)エントランスに至るパスは左が夫妻のロッジの外壁.右が夫妻の歴史を語る写真(カンタベリー博物館)

(写真上)夫妻の貝類コレクションの一部(カンタベリー博物館)
個人的な趣味の蒐集品、収集品を展示する大小のコレクション展示館、美術館、博物館は世界中にある。芸術家、作家、政治家、実業家、芸能人、スポーツマンなどの功績を記念する記念館を含めれば無数という表現がピッタリ。
展示は絵画、彫刻、工芸などの美術品が主流だが、切手、コイン、切符、玩具等、身近なものから、自然科学系の蝶、貝類、鉱物類、植物類など、展示される対象コレクションは数え切れないほど多い。その内容は玉石混交、というより見るに値しないような半端な蒐集(収集)の展示が大部分。
多くは展示法も稚拙で金太郎飴のごとく特徴が無いが、こういう中でも、キラリと輝き、訪れるものを魅了するコンテンツを持つ個人コレクションも少なくない。
そのようなコレクションは交通不便な遠隔地に存在することが多く、小規模、小資本ゆえに広告宣伝も充分に出来ず、マニアや地域住民を除けば、ほとんどの施設は人に知られることが少ない。収蔵品の整理がしきれずに埋蔵されてしまっている貴重なコレクションもある。
地域振興と称して世界に通用するレベルの個人コレクションを辺鄙(へんぴ)な場所に囲い込むのは、広い視野で見れば大きな損失。
時間の限られた観光客は、よほどの関心が無いかぎり、重要な観光スポットとの周遊性が無い遠隔地の訪問は難しい。それ以上に、PRが行き届いてないために知られてないことのほうが多い。
このようなコレクションが、公的資金により利便な都市部に移転し、宣伝費を投じれば、多くの観光客が楽しむことが出来、観光立国の重要な資源となりうる。
(参考)「真鶴町立遠藤貝類博物館と元館長の故遠藤晴雄さん」
商業施設のパルコ、ルミネの手法で、ジャンルが異なる小規模コレクションを一同に集約することも悪くない。宣伝が共同でなされれば広く知られるようになる。
埋もれている個人コレクションを見出して観光立国の柱の一つにしたい。
しらす・さぶろう
観光立国編第四十五話:「沖縄の観光資源:その7」
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